『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)

 2014年12月7日  待降節第2主日 B年 (紫) 紫

2014年12月7日
「主の道を整え、その道筋をまっすぐにせよ」 (マルコ1・3より)


洗礼者ヨハネ
 イコン
 コソボ デチャニ修道院 1350年頃


 現セルビア・モンテネグロのコソボ地方にあるデチャニ修道院は、14世紀半ばに建設され、中世のバルカン半島におけるビザンティン・ロマネスク建築の代表作といわれる。イコノスタシス(聖画障壁とも訳される東方正教会の聖堂に特有の会衆席と内陣を仕切る壁)に掲げられたイコンをはじめ、この教会の約60点のイコンは、東方と西方の伝統を巧みに総合した貴重な文化遺産と評価されるものである(2004年、世界遺産に登録)。
 このイコノスタシスにある洗礼者ヨハネのイコンは14世紀半ばの作品ながら非常に近代的な肖像画にも見える。上に書かれている文字の略記で「先駆者ヨハネ」とある。ビザンティンの伝統での洗礼者ヨハネの呼称である。先備者ヨハネと訳される場合もある。それは、きょうのマルコ福音書1章2節にあるマラキ3章1節からの引用句「見よ、わたしはあなたより先に使者を遣わし、あなたの道を準備させよう」からも明らかであろう。このイコンに見るヨハネの風体だが、やはり、灰色の「らくだの毛衣」と緑の「革の帯」が目立つ(マルコ 1・ 6参照)。これは、しばしば解説されるように、預言者エリヤの特徴である(列王記下1・8「毛衣を着て、腰には革帯を締めていました」)。イエスの登場した時代には、救いの訪れの先駆けとして、このエリヤが再来すると信じられ、待望されていたのである(マラキ3・23参照)。洗礼者ヨハネが登場したときの人々の意識は、来週、待降節第3主日(B年)で読まれるヨハネ福音書1章の叙述からも窺われる。
 さて、しかし、きょうの表紙のイコンのヨハネは、赤茶色の外衣、祝福の動作の右手、十字架の杖、白い巻物も備えている。この姿は、後にイエスを示すものでもあることに注目したい。ヨハネの表情は、「主の道を整え、その道筋を真っ直ぐにせよ」(マルコ1・3。イザヤ40・3参照)という力強いメッセージを我々に向けて発しているようである。その預言を体現するように洗礼者ヨハネは登場し、水の儀式をもって、「罪の赦しを得させるために悔い改めの洗礼(バプテスマ)を宣べ伝え」(マルコ1・4)、実践していった。しかしながら、そのような洗礼ヨハネの姿自身のうちにイエスがかいま見える。「わたしよりも優れた方が、後から来られる」(マルコ1・7)という予告そのものが彼の姿を通してなされている。それは、水の洗礼の中に、イエスがもたらすようになる聖霊による洗礼が予告され、実際、教会が水の洗礼の儀式を受け継ぎながら、聖霊による洗礼を行っていくのとも似ている。洗礼者ヨハネとイエス、ヨハネの宣教および洗礼と、キリスト教の宣教および洗礼との、密接な関係を思いながら、救い主の訪れの鼓動を感じてみたい。

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