『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)

 2015年1月1日  神の母マリア (白) 白

2015年1月1日
神はその御子を女から生まれた者としてお遣わしになった (第2朗読主題句 ガラテヤ4・4より)


トルガの聖母
  ヤロスラウル派イコン
  モスコワ トレチャコーフ美術館 14世紀


 「あわれみの聖母」(エレウーサの神の母)と呼ばれる、中世ロシア、キエフの聖母イコンの一つである。有名なウラジミールの聖母と同様、マリアが幼子のほうに頭を傾け、胸に抱く幼子と頬を合わせているところに、このエレウーサ型の聖母イコンの特色がある。このイコンの独特なのは、さらにマリアが目を幼子のほうに向けているのではなく、イコンを見る鑑賞者のほうに向かっているところ、それから、幼子イエスが母の膝の上を駆け上がって、マリアの頬に自分の頬をすり寄せているようなダイナミックな動きが感じられるところである。母親の頭に対して幼子の頭は大変小さいが、それでもその顔を少年、というよりも大人の感じを示している。単に、母親と幼子を描く図でないことは一目で感じられる。
 マリアは、美しく刺繍が施された分厚い椅子に腰掛けている。すでに神の母としての尊厳に輝いている。マリアの外衣の額と肩には、星をモチーフにした装飾があるが、これは「おとめの星」と呼ばれるものであり、神の母おとめ聖マリアというマリアの尊称にちなんでいる。椅子の背は、建物をあしらっている。地上世界を象徴するものである。神の子を宿し、みことばが人となるための懐となったおとめは、神の母としての尊厳に上げられている。そのような、イエス・キリストの神秘に結ばれたマリアの存在の尊さが、濃紺と赤を中心とし、神の栄光を現す地の色を基調とした配色で表されている。
 さて、1月1日に祝われる神の母聖マリアの祭日は、ローマ教会の最初のマリアの祝祭日である。主の降誕の八日目(それは、ユダヤ人の慣習で男子の割礼をする日であった)、その日に、幼子が天使から示されていたように「イエス」と名付けられたという出来事が重要である。約束されていた救い主としての名が与えられて、イエスの生涯がほんとうに始まるというとき、その幼子は、もちろん、母の胸に抱かれていたであろう。これは、あえて記すまでもなく人類共通の経験から想像されることである。そのマリアは、幼子の誕生をめぐる一連の出来事を「すべて心に納めて、思い巡らしていた」(ルカ2・19)。マリアについてのごく短い記述には、無限の深さがある。神の計画の中で女の中から選ばれ、祝福を受け、神の子の母(神の母)となる使命を受けたマリアの姿は、まさに神の計画の中であらゆる民の中から選ばれ、イエス・キリストに結ばれるすべての人の始まりであり、その象徴である。
 マリアへの思い、神の民(教会)の神に対する感謝と賛美の営みの中で、そして、自らが信仰者である民として、そうなっていきたいという目標の象徴として思い描かれていった。そうなっていけますように……そのための支えをマリア自身に求めながら祈り続け、その中でさまざまなマリアの祝祭日も生まれ、造形芸術の中でイメージされていった。「マリアは、教会の卓越したまったく比類なき成員として、さらにその信仰と愛においては、教会の典型、もっとも輝かしい模範として敬われ」(『教会憲章』53項)ている。
 きょうの聖書朗読、そしてイコンの解説として、『教会憲章』のマリアのついての第8章ほどふさわしいものはない。キリストと教会、マリアと教会の結びつきそのものに思いをめぐらしてみたい。

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