『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)

 2015年5月24日  聖霊降臨の主日 B年 (赤) 赤

2015年5月24日
炎のような舌が分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった(使徒言行録2・3より)


聖霊降臨
  祭壇装飾(部分)
  オーストリア クロスターノイブルク修道院 12世紀末

 
 オーストリアのウィーン近くにあるクロスターノイブルクという町は、アウグスティノ修道祭式者会という修道会の大修道院を中心にできた町である。20世紀の典礼運動の推進者の一人であるピウス・パルシュ(1984-1954)の活躍の拠点として世界的にも有名である。この修道院聖堂では1181年にニコラ・ド・ヴェルダンというフランス人金細工師の手による、金とエマイユによる聖書45場面図が祭壇衝立を飾った。のちに1331年に6場面図が追加され、合計51図。中央に27図(1列9図×3段)を配置、左右両翼に各15図(1列4図×3段)という配列になった。
 総計51場面図の構成が大変興味深い。基本構造は、三段のうち上段は、「律法以前」(ante legem) 、すなわち創世記で物語られる出来事、下段は、「律法の下」(sub lege) としてシナイ契約の授与から旧約の終末に至る時代の出来事が配列されている。中段はいわば、これら旧約の二段階の歴史が予型(前表)として示したところの神の救いの計画の実現、すなわち新約史を描く。そこには、イエスの降誕をめぐる5場面(お告げ、誕生、割礼、三王礼拝、洗礼)、受難・復活をめぐる10場面(入城、最後の晩餐、ユダの接吻、死、十字架からの降下、埋葬、陰府降り、復活、昇天、聖霊降臨)、終末の2場面(トランペットをもつ天使、審判者キリスト)がある。この中段と上段・下段の関係は、たとえばイエスの誕生の例では、上段にイサクの誕生、下段にサムソンの誕生が配置される。旧約の二つの出来事との関連で、イエスの誕生の神秘を味わおうという意図がある。詳細は略すが、イエスの出来事と、上段・下段がどう関連づけられているかは、当時の聖書の解釈例を知る上でも貴重な資料となる。
 表紙の聖霊降臨の場面、上段にはノアの箱船の場面、下段にはシナイ山上での律法の授与の場面が配置されている。ノアの箱船の出来事と聖霊降臨をつなぐのは鳩の象徴であることが思い起こされる。この聖霊降臨の図には鳩そのものは描かれていないが、上段にノアの出来事が描かれていることのうちに、十分象徴として息づいていることがわかる。下段にシナイ契約の授与が描かれているのは、使徒言行録の記す聖霊降臨が、シナイ契約の授与を記念する祭であった五旬祭の日であったことに基づいている。
 聖霊降臨をこれら旧約の二つの出来事との関連で受けとめていく見方のうちに、キリストの死と復活が、人類を滅びから救う決定的な救いの出来事であり、この聖霊降臨とともに新しい契約で神と結ばれる人類が生まれるのだという理解が浮かび上がる。契約とは神と人の交わりそのものであり、イエス・キリスト自身が律法の完成であり、みことば、知恵それ自身である。そして聖霊はまさにそのことを人の心に伝え、導いていく力である。そのような壮大な救済史観の中で、聖霊降臨の場面が描かれている。
 図そのものは、マティアが選ばれた後の12使徒の上に「炎のような舌が分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった」 (使徒言行録2・3)ことを描き、周りに記される文字もこの節のラテン語句である。手前二人のうち、右側がペトロであることは鍵をもっていることでわかる。聖霊を表す青、息吹を表す上方の波のような「動き」が鮮やかである。

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