『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)

 2015年11月15日  年間第33主日 B年 (緑) 緑

2015年11月15日
その時、大天使長ミカエルが立つ。彼はお前の民の子らを守護する(ダニエル12・1より)

竜と戦う大天使ミカエル
  壁画(部分) 
  イタリア チヴァーテ
  サン・ピエトロ・アル・モンテ聖堂 1100年頃
  
 きょうの福音朗読箇所は、マルコ13・24-32。イエスが苦難ののちに訪れる「人の子」についての予告、いわゆる終末予告の箇所である。第一朗読はそのような預言の一つの前身ともいえるダニエル書12章1−3節。同様に、苦難の末の救いを予告するところである。そこが死者のうちからの復活(2節「地の塵の中の眠りから目覚める」)が語られている点で、キリストによる福音に近づいていることがわかる箇所である。
 興味深いのは、福音書では「人の子」の来臨が語られているのに対して、ダニエル書では大天使長ミカエルの出現が語られている。人の子はキリストを意味するので、このミカエルは、キリストの予型として語られていることになる。
 そこで、これまであまり掲げたことがなかった表紙絵のテーマとして、今回は、ミカエルの図を選んだ。これは、中世における聖堂壁画(フレスコ画)に描かれた、ミカエルが竜と戦う場面の図である。
 直接には、ヨハネ黙示録12章の内容を図示している。「また、天に大きなしるしが現れた。一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっていた。女は身ごもっていたが、子を産む痛みと苦しみのため叫んでいた。また、もう一つのしるしが天に現れた。見よ、火のように赤い竜である。これには七つの頭と十本の角があって、その頭には七つの冠をかぶっていた。……そして、竜は子を産もうとしていた女の前に立ちはだかり、産んだら、その子を食べてしまおうとしていた。女は男の子を産んだ」(黙示録12・1−5。聖母の被昇天の第一朗読で読まれる箇所でもある)。裸の男の子が竜の口の前に描かれているのものこの叙述に基づく。
 さて黙示録では、サタンの象徴として語られるその竜にミカエルと天使たちが戦いを挑む。「さて、天で戦いが起こった。ミカエルととその使いたちが、竜に戦いを挑んだのである。竜とその使いたちは応戦したが、勝てなかった」(同7−8節)。初めに語られた女が産んだ「男の子」がすべての国民を治めることになるが、その前のいわば前哨戦を大天使ミカエルたちが行ったという文脈になる。黙示録は終わりのほうの20章11−14節で、最後の裁きを語り、永遠の命と永遠の死について語る。このような黙示録の構造にとって、ダニエル書12章の内容も下敷きの一つになっていることが窺われる。
 ミカエルのことは、旧約聖書でダニエル書に3回言及されるのみである。この12章1節のほかに10章で2回(13節と21節)、ペルシアの大天使長やギリシアの大天使長に対抗して、イスラエルを助けてくれる大天使長として言及される。「ミカエル」とはヘブライ語で「誰が神のごとき」を意味する。「神のような方」という意味を反語的に表現する名である。
 キリストによる決定的な救いの前に、サタンの力を打ち負かせてくれる方というイメージによって、ミカエルは信者たちの期待を集め、その竜退治の場面は、キリスト教美術の初期から大変愛好されるテーマとなっている。中世では、騎士の守護聖人とされていくが、この聖堂壁画でも、まさしく中世騎士の装いである。あらゆる苦難や災厄、苦悩からの解放を求める民の願いが凝縮されたミカエルの姿とともに、我々の時代における「竜」、サタンの働きとは何かを考えつつ、主キリストの来臨を待ち望む気持ちを、深く目覚めさせていきたい。

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