『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)

 2015年12月20日  待降節第4主日 C年 (紫) 紫

2015年12月20日
わたしの主のお母さまがわたしのところに来てくださるとは……(ルカ1・43より)

エリザベトとマリア
  聖書写本挿絵
  スペイン マドリード エスコリアル図書館 十三世紀

  
 写本挿絵の実態がわかるように、聖書本文と挿絵の配置が組み合わされたレイアウトで、今回は表紙の図としてみた。朗読用の聖書は大きく作られているとはいえ、その挿絵は小さなもので、元来は、その教会や修道院の中で限られた人しか見ることはできなかった。現在は、写真版などで公開されることで、中世の人々の豊かな宗教文化を時を経て共有できるようになっている。この恩恵を我々の宗教生活に活かしたいものとつねづね思っている。
 さて、きょうの福音朗読箇所は、いよいよイエスの誕生の直前の想起にあたる場面、マリアとエリサベトの挨拶、「マリアの訪問」と記念される出来事である。この絵は、その挨拶を接吻として描いている。抱擁と接吻という図によって、この出来事の感動の一つの中心点が強調されているわけである。それ以外のこと、「ザカリアの家に入って」とルカ福音書が叙述するところも場としては描写されず、マリア(向かって左側のより若く描かれている方であろう)とエリサベトのほかには何も描かれていない。両脇に木が描かれているだけである。
 このような簡潔な表現ではあるが、むしろ、その中に、ルカ福音書が記す出来事とエリサベトの言葉の内容をより深く味わうことができる。エリサベトの胎内の子(洗礼者ヨハネ)がおどった(ルカ1・41)という喜びの表現も、ここでは格別な要素で強調されているわけではないが、エリサベトのお腹の濃い青の部分(背景とも溶け込んでいるが)の中に感じ取ってよいだろう。そして、二人の女性の接吻の光景を通して、「アヴェ・マリアの祈り」で親しいあのエリサベトの言葉がまず響いてくる。「あなたは女の中で祝福された方です。胎内のお子さまも祝福されています」。そして、喜びに満ちた祝福の言葉「……主がおっしゃったことは必ず実現すると信じた方は、なんと幸いでしょう」(42-45節より)。
 マリアとエリサベトの出会いの喜びは、神の計画に活かされている者同士の出会いの喜びであり、その胎内における洗礼者ヨハネとイエスとの出会いの喜びでもある。二人の女性の接吻が意味しているのは、まさしく神の救いの計画の実現に対する喜びである。そのことを考えながら、両脇の木を見ると、これがまさしく救いの計画の展開とその実りを表現しているものに感じられてくる。写本画の図像伝統の中で、木は、しばしば神の国の象徴である。神の創造の賜物である木は、地上から天に向かっての伸びるその方向においても、また成長して実を結ぶという過程においても、神のことばをよい土壌(よい心)に受けとめて育んでいく民の信仰の象徴である。ここでは、「主がおっしゃったことは必ず実現すると信じた方は、なんと幸いでしょう」とエリサベトが告げるその「幸い」の象徴として描かれていよう。
 このように考えていくと、背景の濃い深い青は、神の計画の深淵さを表現しているように感じられてくる。さまざまなところに、きょうの福音朗読箇所のみならず、ルカ1章から3章まで述べられている内容を味わうためのヒントが含まれている。

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