『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)

 2016年2月7日  年間第5主日 C年 (緑) 緑

2016年2月7日
恐れることはない。今から後、あなたは人間をとる漁師になる(ルカ5・10より)

不思議な大漁
  細密画
  イタリア パルマ パラティナ図書館 10世紀

 
  年間主日C年の福音朗読は、ルカ福音書に従ってイエスの宣教活動を記念していく。きょうの箇所(ルカ1・1-4;4・14-21)は、最初の弟子たちの召命の場面である。他の年では年間第3主日に(A年=マタイ4・12−23、B年=マルコ1・14−20)、シモン(ペトロ)とその兄弟アンデレ、およびゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネの召命の場面が朗読されるのに対して、C年では年間第4主日になる。しかも、マタイ、マルコでは、イエスが宣教を開始する最初の行為として弟子たちの召命が語られるのに対して、ルカではまず4章でイザヤの預言の実現を告知することから始まり、続いて汚れた霊にとりつかれた男や多くの病人の癒やし、そして巡回宣教の開始が語られる。マタイ、マルコと違って、ルカではアンデレが登場しない。また、ルカでは、シモン(・ペトロ)に関する不思議な大漁のエピソードが含まれているのも大きな特徴である。
 このようなルカ福音書の叙述の展開は何を意味しているのかということを、表紙絵とともに味わってみたい。絵は必ずしも叙述の詳細を追っているわけではなく、湖畔に立つイエスが漁師たちの舟に対して何かを語りかけている光景を表している。実はこのような構図は、ヨハネ福音書21章1−11節が伝えるエピソードととてもよく似ている(このヨハネの箇所は、C年の復活節第3主日に朗読される)。このよく似た二つの大漁の話は、福音書以前の共通口伝に由来し、ルカ、ヨハネはそれを各自の文脈に組み入れていると考えられている。ヨハネ福音書21章の場合は、そのあとの12〜19節が示すように、復活したイエスによるペトロに対するより深い召命を叙述する文脈にある。表紙絵の構図は、ヨハネ福音書のほうに合致する(舟に乗っている弟子の数が7人であることなど)ので、この絵をとおしてヨハネ福音書21章とルカ福音書5章のきょうの朗読箇所を重ねながら味わっていくことも一つの方法だろう。
 弟子たちが呼ばれることという以前に、重要なのは(絵では右端に立つ)イエスの姿である。朗読される箇所でも、際立って示されているのはイエスの言葉の力である。魚がとれないという状況で、イエスは「漁をしなさい」と命じる。漁師たちがその言葉のとおりに行うと、おびただしい魚がかかる。不可能を可能にし、現実のものとするというところに、すでにイエスが神の言葉を告げられる方であること、彼のうちに神の聖なる力が満ちあふれていることが語られている。それは、ルカが直前に叙述する人々の癒やしや巡回宣教のうちにも体現されていたものである。このように、なによりもまずイエスに現れている神の聖性を思うことが重要であろう。そこに、シモン・ペトロのひれ伏しての告白「主よ、わたしから離れてください。わたしは罪深い者なのです」(ルカ5・8)の意味がある。聖なる方の顕現を前にしたときの人の恐れ(同時に畏れ)が告げられているのである。この関連で、第1朗読では預言者イザヤの召命の場面(イザヤ6・1−2a 、3−8)が読まれている。
 したがって、きょうの聖書朗読は、召命の出来事というだけでなく、それ以前に、イエスにおける神の聖性の顕現をテーマにしているといえる。「すべてを捨ててイエスに従った」(ルカ5・11)弟子たちの決断を導き出したのは、イエスにおける神性の顕現であり、「恐れることはない」(同5・10)と告げるイエスに魅了されるようにして、漁師たちは人間の漁師になっていこうとする。そして不思議な大漁は、神の力の現れであるとともに、今後のイエスの宣教活動の展開を暗示する。その活動の中に弟子たちはすでに招き入れられているのである。召命という出来事の核心的な姿が示されているのではないだろうか。
 日本のミサで聖体拝領のときの信仰告白は「主よ、あなたは神の子キリスト、永遠のいのちの糧、あなたをおいてだれのところに行きましょう」と、とヨハネ6章68−69節のシモン・ペトロの信仰告白を基にしている。そこの本文は「主よ、わたしたちはだれのところへ行きましょうか。あなたは永遠の命の言葉を持っておられます。あなたこそ神の聖者であると、わたしたちは信じ、また知っています」(新共同訳)となっており、イエスにおける神の聖性の覚知が中心にある。「主よ、わたしから離れてください。わたしは罪深い者なのです」という、きょうの朗読箇所でのシモンの言葉と対照的なようでいて、実は根本にあるイエスに対する心は同じであることに気づかされる。我々が招かれて集うミサは、つねにイエスによる我々の召命の確認を含み、つねに新たな派遣の出来事となることを意識したい。


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