いじめが社会問題となり、学校教育に「道徳科」が導入される中、宗教教育は如何にあるべきか。教育現場での宗教の取り上げ方をめぐる、さまざまな考え方と実践。現代人の知的、霊的な渇きに応える、宗教教育の新たな可能性を探る――。
森一弘、田畑邦治、M・マタタ
現代人の知的かつ霊的な渇きに、キリスト教はどう応えるのか――日本の歴史・文化的背景と現状を踏まえ、学校と教会をつなぐ「生涯教育としての宗教教育」の新たな可能性を多角的に考察する。第一線で活躍する執筆陣が総結集。
宗教教育に新しい風を――まえがきに代えて
T 教育の核心
第1章 生きる力を伝える教育――人に響く宗教教育を求めて……森 一弘
1 カトリック学校教育の実態調査より
2 信仰と生活の遊離、社会と教会の遊離
3 倫理・道徳の究極の規範としての宗教世界に対する一般社会からの期待
4 時代の流れに翻弄される人々のニーズに応える
5 おわりに
第2章 日本の教育という場の土壌的特性とカトリック教育………祖敏明
1 はじめに――日本の教育という「場」の問題
2 日本の教育の場とフランス革命の教育思想との関連性
3 日本の教育史書という場におけるカトリック教育の位置と評価
4 教育における宗教的中立の意味内容の再考
5 おわりに
第3章 聖霊神学と人間教育……小野寺 功
1 私の教育経験と問題意識
2 新しい人間観の確立に向けて
3 西田哲学から聖霊神学へ
4 聖霊神学と人間教育の留意点
5 宗教・道徳教育の原点――滝沢克己「賢ちゃんへの手紙」
6 聖霊と「創造の倫理」の位置づけ
U 道徳と宗教の再定義
第4章 近代日本の歩みの中の宗教と倫理
――世俗の倫理と宗教的超越の交わるところ……………清水正之
1 はじめに
2 宗教に向かう態度
3 宗教と倫理・道徳の諸相――近代のいくつかの断面から
4 世外教と世教――西村茂樹『日本道徳論』より
5 束ねるものとしての宗教
6 戦後の始まりとその一風景
7 おわりに
第5章 キリスト教的視点からの女性教育論
――エディット・シュタインを中心に………………………須沢かおり
1 はじめに
2 教育者としてのエディット・シュタイン
3 人格形成のプロセスとしての教育
4 教育の目的としての人格教育
5 教師の役割
6 教育における超自然的な次元――魂の内からの形成
7 女性論の展開
8 いのちを育む女性
9 女性教育論の核となるもの
10 教育と祈り
11 おわりに――アウシュヴィッツからのメッセージ
第6章 人間、この欠けたるもの
――聖書の人間観と宗教教育への希望………………田畑邦治
1 はじめに――宗教教育への反省から
2 教育一般と宗教教育の目標と相互の関係
3 教育と宗教教育に共通する「人間解放」
4 聖書における神と人間
5 塵である人間の貧しさと豊かさ
6 おわりに――宗教教育への希望
第7章 日本における心の教育と倫理――形のない心を形づくる…竹内修一
1 はじめに
2 心――生きることの味わい
3 いのち――恵みへの感謝
4 福音と倫理――喜びの中のことわり
5 おわりに
第8章 個人の尊重と「公共の精神」……………………………稲垣久和
1 なぜ宗教教育が必要か
2 旧教育基本法
3 改正教育基本法
4 福祉文化の形成
5 民主主義の形成
6 市民社会への新たな問い
7 民主主義と市民的美徳
V 日本の教育実践――過去・現在・未来
第9章 キリシタン時代の教育
――一六世紀ヨーロッパ・イエズス会教育と戦国日本……川村信三
1 はじめに
2 イエズス会の布教と教育伝統
3 イエズス会教育理念の一六世紀日本への導入
4 おわりに
第10章 内村鑑三と新渡戸稲造の教育思想……………………鈴木範久
1 受けた教育――教育思想の形成
2 行った教育――教育思想の実践
3 語られた教育――教育思想論
4 二人の影響
第11章 明治以降のキリスト教教育史
――宗教教育者の養成を展望して……………………佐々木裕子
1 はじめに
2 近代学校教育制度の成立とキリスト教教育
3 カトリック教育史にみる宗教教育の特徴
4 おわりに
第12章 宗教色なき宗教教育の可能性…………………………桑原直己
1 はじめに
2 『心のノート』および道徳教育をめぐる批判的言説
3 心情主義的道徳教育と臨床心理学の応用
4 「宗教色なき宗教教育」のイデオロギー的検討
5 結 語
第13章 ポストモダン時代におけるスピリチュアル・ブームとキリスト教
――その背景と今後の展望……………………………英 驤齪N
1 はじめに
2 ポストモダンの危機――物語の終わり
3 スピリチュアル・ブームとその特徴――代替物語として
4 ファンダメンタリズム復興の危機――もう一つの代替物語
5 キリスト教のスピリチュアルなチャレンジ――新しい物語になりうるために
第14章 日本人の宗教心と教育の未来……………ムケンゲシャイ・マタタ
1 はじめに
2 日本人の心とキリスト教
3 多神教の日本における宗教的寛容性
4 宗教の社会的役割を促進させる
5 おわりに