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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2015年12月13日  待降節第3主日 C年 (紫)
その方は、聖霊と火であなたたちに洗礼をお授けになる (ルカ3・16より)


イエスに洗礼を授ける洗礼者ヨハネ
 洗礼盤の浮き彫り装飾
 ベルギー リエージュ 聖バルトロマイ教会 12世紀初め

   

 先週の待降節第2主日から登場する洗礼者ヨハネは、きょうの第3主日では、イエスの到来についてはっきりと「わたしよりも優れた方が来られる」(ルカ3・16)と告げる。「その方は、聖霊と火であなたたちに洗礼をお授けになる」(同)という言葉で、イエスが何を成し遂げる方であるかを告げるのである。この場合の「洗礼」とは、洗礼の儀式にとどまらない、神の裁き、民の信仰に対する試練、イエスの受難への歩みまでを含めた非常に深い意味で語られている。このことを踏まえて、その後(3 ・21−22)で述べられるイエスの洗礼は、他の人々が洗礼者ヨハネの洗礼を受けたのとは異なるそれ以上の出来事であることが予想される。「イエスも洗礼を受けて祈っておられると、天が開け、聖霊が鳩のように目に見える姿でイエスの上に降って来た。すると、『あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者』という声が、天から聞こえた」(同)というところに、その固有性があかしされるのである(ちなみにこのイエスの洗礼の箇所は、新年1 月10日の「主の洗礼」の日に朗読される) 。
 さて、表紙絵に掲げたのは、そのイエスの洗礼を浮き彫りで表現する装飾を伴う洗礼盤である。ヨルダン川の流れの中で半身を浸しているイエスに、洗礼者ヨハネが按手するように水をかけている様子、また右側でイエスに衣を差し出す天使たちの姿などは、イコンにおけるイエスの洗礼図に見られる伝統的要素である。その上で、この作品固有の要素として、イエスが胸に両手を当てている姿勢がある。ルカによるイエスの洗礼の叙述に含まれる「イエスも洗礼を受けて祈っていると」(3・21)が考慮されているようである。その、イエスの頭上からは、神の栄光を暗示する雲から鳩が降り出すように描かれ、聖霊がイエスの上に降(くだ)ったことが示されている。これも定型要素である。「天が開け、聖霊が鳩のように目に見える姿でイエスの上に降って来た」(21-22節)とのルカの叙述にこれもよく合う。
 しかし、この作品には注目すべき要素がある。それは天の雲から男性の頭が突き出ていることである。立体的に手前に突き出ているので、正面からは見づらいかもしれないが、まぎれもなく、これは、父である神を表現するものである。御父がイエスの洗礼の様子を見つめているのである。ルカ福音書の叙述に即せば、「あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」(3・22)という声を表現している。
 このようにな構図によって、父と聖霊と子の緊密なつながりが鮮やかに示される。洗礼者ヨハネは、まったく新しい次元の出来事の証人として、ここに立っているようでもある。旧約以来の預言者の最後の人ともいわれる洗礼者ヨハネがイエスの頭に指す出す右手は、その預言の使命が、救い主そのものの使命に引き取られる瞬間を示していると考えることもできる。きょうの福音朗読箇所中の「わたしよりも優れた方が来られる」という洗礼者ヨハネの予告のまぎれもない実現である。
 この少し身をかがめた洗礼者ヨハネの姿勢と、その丁寧に差し出された右手を眺めつつ、きょうの福音朗読における洗礼者ヨハネの言葉を味わってみたい。

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