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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2016年7月3日  年間第14主日 C年 (緑)
行きなさい。わたしはあなたがたを遣わす(ルカ10・3より)


弟子たちを祝福するイエス
  福音書挿絵
  イタリア ロッサーノ大司教館付属美術館 6世紀

   

 見ているうちに、何か喜ばしい気持ちになる絵ではないだろうか。紫羊皮紙とも呼ばれる、初期の福音書写本画が描かれた作品例であり、その紫色の地が、喜ばしさを倍加しているのかもしれない。
 本日の福音朗読箇所(ルカ10・1−12,17- 20。短い場合10・1−9)は、イエス(ルカは「主」という)が72人の弟子を任命して派遣する場面の教えである。教えの内容は、細かな注意事項を含むが、それは、初代教会のいろいろな事情も反映されていると思われる。我々がこの朗読箇所から印象づけられるのは、細かな注意よりも、主イエスが力強く、弟子を派遣する方であるということであろう。 そのような主と弟子たちの関係の姿を、弟子たちが一人ひとりイエスの前に向かい、祝福を受けているこの写本画の光景のうちに感じ取りたい。
 イエスは、前に来た弟子の手に接吻し、また彼の額に左手の親指で触れているようである。広い意味で、按手のしぐさと考えられる。イエスの前で身をかがめている弟子のほかの弟子たちの動きもとてもリズミカルである。後ろのほうの二人は、両手を腰に当ててやや体を前向きに曲げている。歩いているということを表現しているのだろう。歩いてきて、イエスの前から二番目(後ろから三番目)に立っている弟子は、両手を衣のそでの中に隠している。それは、ある種イエスの前での畏敬の姿勢と思われる。しっかりと真っ直ぐに立っている姿――この絵の中央線をなす姿であるが、左のイエスの立ち姿との対応関係にも注意したい。
 イエスの前で身をかがめて接吻と按手を受けている弟子の右側(画面では向こう側)には、両手を上に向けて天を仰いでいる弟子の姿も見える。これは、祝福を受けたあとの神への感謝を示すものだろうか。
 いずれにしても、それぞれに姿勢や動作が異なる5人の弟子たちの姿のうちに、キリストとの関わり、御父である神との関わりのそれぞれの様相が反映しているようで、それについて想像をめぐらすだけでも楽しい。
 このようなイエスに向かう弟子たちの行列の光景は、ある意味で、ミサで我々も経験する行列の原型といえるものではないだろうか。その典型は、いうまでもなく聖体拝領の行列である。ここに描かれるイエスの姿を聖体の意味と考えるなら、ここの弟子たちの姿は、鏡のように、聖体拝領を受ける我々自身をも映し出すものとして味わうことができよう。
 ここで一つの参考に、20世紀の宗教哲学者、典礼運動の指導的思想家であったドイツのロマーノ・ガルディーニ(1885年生まれ、1968年没。事典などではグアルディーニとも表記される)のことばを紹介したい。『聖なるしるしについて』(原著ドイツ語 増補改訂番1929年発行、未邦訳)という、典礼の中のさまざまな動作や姿勢のもつ霊的意味を考察する書物で、以下は「歩くこと」について述べる一節である(試訳)。 「歩くこと、それは、急ぐことや走ることと異なる静かな運動である。足を律動させる力強い前進。体を真っ直ぐにして安定したリズムを刻む。このような正しい歩行には高貴さが漂う。自由でありつつ適度の規律によって抑制され、軽やかでありつつたくましく、穏やかでありつつ前に進む力にあふれている。このように直立して歩くということは、すなわち人間であるということをもっともよく示している。……歩くことをもって人間らしさを表す我々は、キリストによって、人間以上のもの、『神の民』となり、神によって新しいいのちに生きるものとなった。神の民のうちにキリストが聖体をとおして深い意味で内在する。キリストのからだが我々のからだの中に入り、キリストの血が我々のうちに成長し、我々はキリストのうちに成長する。いつも、深く我々の中に入り、我々を貫き、上へと高めていく。我々がキリストの背丈に届くまで、キリストが我々のうちに形づくられるまで」
 我々がミサで行う聖体拝領の際の行列歩行を思いながら、この文章を読むと示唆多いであろう。そのような意味合いの歩行を描いているのがこの絵であるともいえる。ミサの式次第においても、聖体拝領には、すぐ派遣の儀(閉祭)が続く。キリストからの派遣の意味、主と交わりの力をもって、一人ひとり、それぞれに使命をいただいて派遣されていくミサの喜びをこの絵とともに味わっていきたい。

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