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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2016年7月31日  年間第18主日 C年 (緑)
上にあるものを求めよ。そこには、キリストがおられる (第二朗読主題句 コロサイ3・1より)


荘厳のキリスト
  写本画
  ヴィヴィアンの聖書  パリ国立図書館 850 年頃

   

 きょうの第二朗読で読まれるコロサイ書の「上にあるものを求めよ。そこには、キリストがおられる」(3・1)にちなんで、荘厳のキリスト、すなわち天の玉座キリストを描く写本画が表紙に掲げられている。 この荘厳のキリスト図は、中世初期の宇宙観を窺わせる意味でも興味深い作例である。全体の四角形、中の菱形の四角にある円形、菱形の中の8の字の光背(玉座のキリストの栄光を表現する形)というように、さまざまな図形が組み合わせられている。全体として深い青が基調となっているのも宇宙を感じさせよう。この図形の組み合わせ方自体も、中世初期当時普及していた宇宙の模式図をモデルにしているらしい。それは、地球の大陸を内部の四角(ここでは菱形)で表し、四辺の中央の円に東西南北という四つの方角を示すことで宇宙全体を表象させるというものであったようである。
 これを土台に、4辺、4角、4隅など、さまざまな「4」がここでは、旧約聖書の4大預言者、新約聖書の4福音記者および4福音書を象徴するために活用されている。一つひとつ見てみよう。まず四隅に描かれる人物は、4福音記者で左上がヨハネ、右上がマタイ、左下がマルコ、右下がルカである。菱形の各角の円には、上がイザヤ、右がダニエル、左がエゼキエル、下がエレミヤと各預言者が描かれている。その預言者の描かれる円の中のほう、すなわちキリストの玉座の後方の上下左右には、4福音書を象徴する四つの生き物が描かれている。菱形の上の円のイザヤの下側には、ヨハネ福音書を象徴する鷲、これは左上のヨハネと対応している。右のダニエルの内側にはマタイ福音書を象徴する人間、これは右上のマタイと対応。菱形の左の円のエゼキエルの内側には、マルコ福音書を象徴するライオン、これは左下のマルコと対応、菱形の下の円のエレミヤの上には、ルカ福音書を象徴する牛、これは右下のルカと対応している。したがって、この菱形を45度左に回転させると、福音記者と福音書を象徴する生き物とは一致するという配置である。
 預言者の描き方と、福音記者や福音書象徴の描き方を比べてみると興味深いことに気づく。それは、預言者がいずれも巻物を持っているのに対して、福音記者は我々のイメージする本(冊子綴じ本=コーデックス)を抱えるか実際に本を書いているのである。4つの生き物が抱えているのも本である。ここに旧約時代の巻物から新約時代の本へという書物の発展史が反映されているのが興味深い。
 ちなみに、キリストが左手に抱えているのも本であり、これをもって自らが「神の言〈ことば〉」であることが象徴されている。預言者は旧約聖書全体をも意味するとすれば、旧約聖書において約束され、その到来が予告された、まことの神の言〈ことば〉であるキリストは、地上の生涯の後、神の右の座に着き、天上から人間世界のために働き、神の民の礼拝と歩みを導いている。4つの福音書はそのキリストを証言し、告げ知らせ、再臨を待ち望むよう神の民を養っている。
 そう考えると、預言者と福音記者に囲まれている天上のキリストは、今、我々のミサの中におられるキリストの姿そのものということになる。十字架の背後に、いや上に、この玉座のキリストがおられる。使徒はたえずそのキリストを求めるように、そのキリストに心を向け、そのことばに耳を傾け、そのいのちをいただいて生きるよう呼びかけている。「あなたがたの命であるキリストが現れるとき、あなたがたも、キリストと共に栄光に包まれて現れるでしょう」(コロサイ3・4)という将来を指し示しながら、地上のものへのとらわれを捨て去るよう呼びかけるこの使徒書は、福音の「自分のために富を積んでも、神の前に豊かにならない者はこのとおりだ」(=命を取り上げられる)」(ルカ12・21)というメッセージとも響き合っているように思われる。一見、直接のテーマ的つながりがなさそうに見える、福音朗読箇所と使徒書の箇所も、このように、絵の鑑賞を媒介してみると、深いところでの関連が考えられるようになる。

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