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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2017年2月5日  年間第5主日 A年 (緑)
あなたの光は曙のように射し出る(第一朗読主題句 イザヤ58・8より)


夜と曙のイザヤ 『パリ詩編』挿絵 パリ国立図書館 (10世紀末)


 『パリ詩編』と通称される、詩編書の挿絵である。この詩編書はビザンティン帝国マケドニア朝(867 年〜1056年) 、コンスタンティヌス7世(在位912-59年) の頃に作られたと考えられている。449 葉からなる写本で、14枚の全葉挿絵が含まれている。16世紀にフランス王国の大使がコンスタンティノポリスで入手して持ち帰り、現在はパリ国立図書館に収められている。マケドニア朝における古典文化復興( マケドニア・ルネサンス) の代表的な作品の一つといわれる。
 この「夜と曙のイザヤ」は、夜と曙の形象とともに預言者イザヤを描くもので、古代ギリシア的な表象が含まれていることから一種独特な雰囲気が醸し出されている。真ん中にいるイザヤは、その風体からもそれらしく見えるし、右上の天から差し出された右手として神が形象化されることも、聖書的な伝統に基づく表現である。それに対して、(向かって左側)にいる女性像はニュクス(上の文字が示す)と呼ばれる夜の化身である。頭を覆う布には星が描かれていて、これで夜の星空を表し、左手が抱えるたいまつも夜のしるしである。顔や衣が暗い色なのも、夜を示す。右下の子どもは何かというと、曙を象徴している(上の文字オルトロスは「曙」の意)。光がだんだんと成長していく明け方の太陽を子どもになぞらえているのである。
 絵が収められている詩編書とは、詩編を中心に歌って祈る聖務日課(「教会の祈り」)のための典礼書を意味する。その中には各定時の祈りにちなんだ預言書の朗読や賛歌も適宜含まれていたであろう。そのためにイザヤ書の箇所も含まれていると思われる。この絵が関係している箇所は、直接には、イザヤ26章9節「わたしの魂は夜あなたを捜し、わたしの中で霊はあなたを捜し求めます」らしい。困難の中で神とその裁き、救いを待ち望む内容で、全体が復活を求める祈りとされている箇所である。この詞が夜の闇から曙光が差し込み始める時刻に祈られ、キリストの復活の朝を待つ気持ちとともに祈られたのであろう。
 また、9章1節に関連づけられる場合もある。「闇の中を歩む民は、大いなる光を見、死の陰の地に住む者の上に、光が輝いた」−−言うまでもなく、主の降誕・夜半のミサの第一朗読で読まれる箇所で、神の子が人間の世界にお生まれるになることに対する予告として受けとめられることばである。
 イザヤの預言にはこのような、闇のイメージと光のイメージの対比が各所に見られる。きょうの第一朗読の箇所イザヤ書58章7−10節もまた闇と光の対比をもって力強く語る。そこでは、飢えた人にパンを与え、家もなくさまよう人を家に招き入れ、裸の人に衣を着せるなど、同胞への助けを惜しまず行う人の光が曙のように射し出でると告げる(58・7参照)。そのような実践をするなら、「あなたの光は、闇の中に輝き出で、あなたを包む闇は、真昼のようになる」(58・10)。上にあげた箇所がキリストによる救いの約束、降誕の予告、復活の予告として闇と光を語るのに対して、この箇所は、神の民一人ひとりが、神ご自身の光を担い、いつくしみと愛の実践をもってその輝きを広めていくよう呼びかけているのである。実に積極的なかたちで神に生きる人の生き方を語る箇所であり、福音で告げられる「あなたがたは世の光」(マタイ5・14)の教えをとおして、そのままキリスト者の生き方を指し示すことばになっている。
 この絵は、イザヤに神が語りかける図であるが、その内容は、この預言者をとおして神の民全体に向けられていることを、イザヤ書の本文とともにまず受けとめよう。同時に、この神の右手はキリストを示す形をしているともいわれる。そこからの光の放射は、イザヤをとおして、また、イエスの教えと行い、その生涯を通して、今、我々皆に向かっているものとして受けとめていきたい。

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