本文へスキップ
 
WWW を検索 本サイト内 の検索

聖書と典礼

『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2017年8月15日  聖母の被昇天 A年 (白)
「今から後、いつの世の人もわたしを幸いな者と言うでしょう」(ルカ1・48より)


聖母子   モザイク ギリシア オシオス・ルカス修道院聖堂 11世紀


 イコンの聖母像にはさまざまな型があるが、マリアが正面を向き、ひざの上にイエスを抱えているというタイプは、もっとも古いものの一つである。マリア自身がイエスの座になっているところに特色がある。宮廷での皇后と皇太子のイメージが下敷きになっているといわれる型である。
 このイコンの場合、マリアはクッションのある横長の椅子に座している。幼子イエスも、すでに少年のようであり、かつ全能者キリストを描くイコンと同じく、右手は祝福のしぐさをし、左手は巻き物を抱え、その姿の全体は主としての尊厳に満ちている。マリアの右手が軽くイエスの方に触れているところに母の子に対する情感が感じられる。イエスの衣の白さが黒いマリアの衣の上に鮮やかに浮かび上がる。イエスはまぎれもなく神の本性において映し出され、マリアはこの方の母として、その全身を背景から包んでいる。マリアの両肩にはイコンでよく見られる文字略記(モノグラム)「ΜΡ ΘΥ」が記されている。これは、「神の母」=メーテール・セウー(ΜΗΤΗΡ ΘΕΟΥ)の二語それぞれの初めと終わりの文字を合わせたものである。聖堂内陣の天井に描かれた絵として、このキリストの姿も、マリアの姿も、描き込まれる人間的な要素を超えて、その存在はすでに天上のもの、永遠のものとなっていると考えられる。
 きょうは聖母の被昇天。その集会祈願は、「全能永遠の神よ、あなたは、御ひとり子の母、汚れのないおとめマリアを、からだも魂も、ともに天の栄光に上げられました。信じる民がいつも天の国を求め、聖母とともに永遠の喜びに入ることができますように」と告げる。「被昇天」という用語が意味することは前半で端的に告げられる。「マリアがからだも魂もともに天の栄光に上げられた」ことである。マリアの存在がまるごと神に受け入れられたことを意味する。それは生涯歩んできた生き方に対する神の承認であり、最大の祝福である。このことは地上を歩む神の民(教会)にとっての到達目標となる。マリアは、その意味で、「教会の典型、もっとも輝かしい模範として敬われ、カトリック教会は聖霊に教えられて、マリアをもっとも愛すべき母として孝愛の心をもって敬慕するのである」(第2バチカン公会議『教会憲章』53)。
 この教会が目指すべき方という意味合いは、聖書朗読の内容とも響き合う。そこでは、第1、第2朗読で終末における神の国の完成が主題となっているのである。
 第1朗読は、黙示録11章19節a、12章1−6節と10節abから、「一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には12の星の冠をかぶっていた」(12・1)という光景が読まれる。12という数がイスラエルの12部族やキリストに派遣される12使徒の数を想起させるところから、この女は旧約・新約を含む「神の民」の姿を象徴していると考えられる。この女は、「子を産む痛みと苦しみのため叫んでいた」(12・2)が(人類の母エバを思い起こさせる。創世記3・16参照)、やがて「男の子を産んだ」(12・5)。この子には「神のメシアの権威」(黙示録12・10参照)が現れている。すなわち、救い主キリストである。こうして神の民の歴史の中から、神の子である救い主キリストが現れた。太陽・月に象徴される全宇宙をも従える神の国の完成、神の民はそこへ導かれているという展望が示されている。
 第2朗読の第一コリント書も、神の国の完成に思いをめぐらせ、それを復活の教えに結びつける。キリストによる支配と、最後に父である神によるその支配(神の国)の完成という二段階的な説明とともに、「救い」とはすべての人がキリストによって生かされることだという教えもある。この普遍的な救いに至るために、すでに「キリストに属している人たち」(15・23)、すなわちマリアをはじめ、使徒・聖人たちは、次に続く人たちの歩みを支えてくれている。奉献文の後半の祈りがここに関係する。
 このように、第1朗読、第2朗読が終末の完成に向けての約束と希望をテーマとしているとすれば、福音朗読箇所は、マリアの賛歌(マニフィカト)が中心となっている。神による救いを素直に喜び、神をたたえる心が歌われている。その中で、神がどのような方であるか(「その憐れみは代々に限りなく、主を畏れる者に及びます」ルカ1・50)が告げられている。我々はマリアとともに、主をあがめ、神を喜びたたえる者として(同1・46−47参照)生きている。この素直な神賛美に含まれる信仰と愛が終末の喜びへと導いていくのだろう。ミサの祈りが全体として、このような信仰心にあふれていることは言うまでもない。

このページを印刷する

バナースペース

オリエンス宗教研究所

〒156-0043
東京都世田谷区松原2-28-5

Tel 03-3322-7601
Fax 03-3325-5322
MAIL