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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2019年1月20日  年間第2主日 C年 (緑)
イエスは最初のしるしをガリラヤのカナで行われた  (福音朗読主題句 ヨハネ2・11より)

カナの婚宴 
挿絵 ヒトゥダ写本 
ドイツ ダルムシュタット ヘッセン州立美術館 11世紀初め

 カナの婚礼の出来事を描く朗読福音書写本の挿絵。きょうの福音朗読箇所は、ヨハネ2章1−11節、カナでの婚礼で、ぶどう酒がなくなったとき、水がめにいっぱいの水をイエスがぶどう酒に変えた話である。ヒトゥダ写本と呼ばれるのは、ドイツ中西部の町メシェデにあった女子修道院の院長ヒトゥダのもとで11世紀初めに作られた朗読福音書だからである。この挿絵には、人物や水がめを描く、黒い輪郭線が印象的で、スピード感のある曲線には魅力がある。話の焦点となる、六つの水がめ(ヨハネ2 ・6 参照)が、きわめて量感豊かで、その並び方にリズムが感じられる。このかめに手をさしのべる人を筆頭に8人ほどの顔が見える。イエスの後ろにも人々がいる。婚礼の世話役や召し使いたち、婚礼の客さえ想像させる。
 イエスは、左手に巻物、右手で祝福を送るしぐさといった定型要素をもって描かれている。主である方としての姿である。主の行ったことには特別な意味がある。カナの婚礼のエピソードを読んで、今ひとつピントとこないとき、この場面を視覚的に示す絵を見ることが案外と助けになるものである。
 カナの婚礼のエピソードは、あるときたまたま起こった奇跡、水をぶどう酒に変えた超人的なわざといったものではない。そのことが叙述の中のさまざまな特有表現で暗示されている。朗読箇所の末尾に「イエスは、この最初のしるしをガリラヤのカナで行って、その栄光を現された」(2・11)と述べられているように、それはあくまで、自らの栄光を現した出来事である。それは、自らが主であること、神の言(ことば)である方だということの現れである。写本画で、いつもイエスが主としての尊厳をもって光輪を付けて描かれる慣例も、このような見方に対応している。
 暗示的な特有表現として、最初に出てくるのは「三日目」。これは、イエスが十字架に付けられて復活するのが三日目であることの暗示である。ヨハネ福音書ではカナの婚礼のエピソードのあとに、神殿から商人を追い出す出来事が述べられるが、そこでも「この神殿を壊してみよ。三日で建て直してみせる」(2・19)と告げられる。最初からイエスの受難と復活が主題となっている。「婚礼」はマタイ(22・1−14)やルカ(14・15−24)でも神の国の到来のたとえとして言及される。ここでも終末における主の来臨、神の国の完成への暗示で満ちている。そこで「ぶどう酒が足りなくなった」という事実は、旧約の民(〜古代ユダヤ教)の信仰では、神の国の祝いが完成しないことを暗示するという。6つの水がめの水も、やはり旧約的な段階を象徴しており、その水がめの水をぶどう酒に変えるという行為を通して、イエスの死と復活の出来事が旧約の段階を完全に凌駕することが予告されているのである。
ところで、ぶどう酒が足りなくなったことをイエスに告げる母に対して「わたしの時はまだ来ていません」(ヨハネ2・4)とイエスは言う。ヨハネ福音書では、12章23節で「人の子が栄光を受ける時が来た」と言うまで、イエスはまだその時が来ていないことを告げる(7・6、8、30、8・20)。受難と復活による栄光の現れに向けて、カナの婚礼は、それに向かい、それを予告するしるしとして位置づけられているからである。そこでまた、「母」(ヨハネにはマリアという名の言及がない)に対して告げる言葉に、十字架の上から母に告げた19章26節の言葉との対応が感じられる。母が召し使いたちに告げる「この人が何か言いつけたら、そのとおりにしてください」(2・5)には、イエスのことばが現実を変革し、導く力をもっていること(7節、8節)がはっきりと述べられている。ヨハネ1章の冒頭で「神の言(ことば)」として紹介され始めた、その方の行った最初のしるし、栄光の現れである。
 表紙絵には、左側の主キリスト、右側の人々の間の背景に、青い層と金色のような層がある。主の栄光が現され始めた最初の出来事を照らす曙光のようである。青が絶妙で、絵に深みを与えている。

  きょうの福音箇所をさらに深めるために 

ワインは、神への献げ物であり、水が少ない日常生活でも荒れ野でも、喉の渇きを癒す大切な飲料でした。ぶどうの発酵が進んでいくと、酸っぱいぶどう酒、つまりワインビネガーになります。水で薄めて労働者の飲み物にもなりました(出29:41、民:15:5-10、ルツ2:14、サム下16:1-2など)。
山口里子 著 『食べて味わう聖書の話』「一緒に食べる幸せ」 本文より



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