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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2019年2月24日  年間第7主日 C年 (緑)
敵を愛し、あなたがたを憎む者に親切にしなさい(ルカ6・27より)

キリストの捕縛  
ライン地方の修道院に由来するステンドグラス
ドイツ ダルムシュタット ヘッセン州立美術館 15世紀初め

 「敵を愛しなさい」の教えを聞きながらイエスの受難を黙想しよう、そんな思いで、今回は、ユダの裏切りによってイエスが逮捕されるようになる、ルカ福音書でいえば22章47-48節にあたる箇所を描くステンドグラスの部分を表紙に掲げている。
 イエスの受難への道は各場面がキリスト教美術として描かれている。ところが、ミサの朗読としては、受難の主日や聖金曜日に読まれることになるため、他の主日の聖書朗読で登場することがない。『聖書と典礼』のために、それらの場面の画像を掲げようと思っても、直接対応することが少ないわけである。そこで、イエスが宣教の生涯の中で、ことばで述べる教えに、なんらかの意味で関連するような受難の諸場面を適宜入れていきたいと考えている。きょうは、その一例である。
 イエスは、この裏切りから逮捕に至る過程で、逮捕に向かってくる人々に対して、「今はあなたたちの時で、闇が力を振るっている」(ルカ22・53)と告げた。いわば、これは、敵が力を振るっている様子に直面しているということになろう。そして、イエスは自らのこの敵の振る舞いのなかに服し、苦しみを受け、十字架に至る。受難の道を歩んでいくイエスの心を思い手がかりとなるのが、きょうの福音朗読箇所ルカ6章27-38節にある「敵を愛し、あなたがたを憎む者に親切にしなさい」という教えになると思われる。
 マタイ福音書5章43-48節の内容とも重なるところも違うところもあるが、ここでは比較は割愛する。今、ルカの本文を見ると、それだけでも「敵を愛しなさい」の教えは復讐心にとらわれやすい我々人間にとって実に衝撃的である。6章27-30節の畳みかけ方が特に強烈である。「敵を愛し、あなたがたを憎む者に親切にしなさい。悪口を言う者に祝福を祈り、あなたがたを侮辱する者のために祈りなさい。あなたの頬を打つ者には、もう一方の頬をも向けなさい。上着を奪い取る者には、下着をも拒んではならない。求める者には、だれにでも与えなさい。あなたの持ち物を奪う者から取り返そうとしてはならない」。
 だれにできようか。しかし、それはまぎれもなく復讐や仕返しの論理を超えることへの力強い呼びかけである。もちろん、これは人間業ではいかない。神の子イエスが受難の道を歩み、十字架上の死に至ることによって、それが究極的になし遂げられたのである。まさしく「あなたがたの父が憐れみ深いように、あなたがたも憐れみ深い者となりなさい」(ルカ6・36)という生き方の率先垂範である。イエスは、父の憐れみの体現者であると同時に、その憐れみにならうべき人間の「初穂」でもある。
 結局、きょうの福音朗読箇所全編を満たしている教えは、イエス自身の生き方と姿勢、自らの受難と死を通してなし遂げようとすることの核心を説き明かし、また、その受難から復活への道がきょうの教えの意味を隈なく解き明かすともいえる。その道によって仕返しの論理が決定的に打ち砕かれ、人類に新しい生き方の道が開かれる。我々はミサを通して、イエスの歩みを記念しながら、この精神に立ち返り、全世界に向けて「敵への愛」を訴えようとしている。現代世界が、この愛を忘れそうになるとき、闇が力を振るおうとしているならば、そのときこそまさに、ユダの裏切りを目の当たりにするイエスの思いに立ち返る必要があろう。そのときのイエスの思いと愛敵の教えを重ね合わせ、現代における我々の使命へと思いを向けていくことにしたい。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために  

「聖書が伝える『愛』のギリシア語の原文はάγάπη(アガペー)です。現在、日本語の聖書はアガペーを『愛』と訳しています。『愛』ということばは多義的でありますが、アガペーの愛も含んでいます。
 しかし、四百年以上前の宣教師たちは、『愛』を使うことを望みませんでした。当時、『愛』はむしろ悪い意味でした。自分の欲望を充たそうとする人間の心の状態を指すことばとされていたからです。バテレンと呼ばれた当時の司祭たちは、結局、アガペーを「ご大切」と訳し、動詞は『大切にする』としたのでした。」
岡田武夫 著『信じる力――大切なあなたに贈ることば』「神の思いは人間の理解を超えています」本文より



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