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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2019年3月24日  四旬節第3主日 C年 (紫)
神は、柴の間から声をかけられ、「モーセよ、モーセよ」と言われた(出エジプト3・4より)

主である神に呼ばれるモーセ 
モザイク 
ラヴェンナ サン・ヴィターレ教会 6世紀

 主の呼びかけを受け、燃える柴の中で履物を脱ぐモーセの姿。色彩豊かなモザイクを背景に、神からの人間への召命という主題が鮮やかに浮かび上がる。
 ここラヴェンナ、サン・ヴィターレ教会の内陣の両側面には、ミサの奉献の意味を照らし出す旧約の出来事が彩り鮮やかに描かれている。一方にアブラハムに関する二つの場面、3人のみ使いを迎えるところ(創世記18章)、イサクをささげるところ(同22章)、もう一方は、アベルの奉献(同4・4)、メルキゼデクの奉献(14・18-20)である(ミサの第一奉献文参照)。それぞれの横にはモーセの絵が掲げられている。一つはこの、燃える柴の中で神の声を聞くところの絵。もう一つは神の十戒を受け取るところである。
 燃える柴の場面には、初期キリスト教美術のはっきりとした考えが示される。それは、神は見ることができず、像で描くことはできない、というものである。そのために、天から差し出された右手でもって神を、特にその全能性を表すのが普通であった。髭のない青年像で描かれているここのモーセは、燃える柴の中で声を掛けられて振り向いていると同時に、すでに神のことばに従って履物を脱いでいる(このことは聖書本文では言及されないが、当然想定される)。きわめてユニークな動作をしている人物像をもって、「神は柴の間から声をかけられ、『モーセよ、モーセよ』と言われた」(3・4)という瞬間が描写されている。モーセが後ろを振り返るように神のことばに聞き、それに従っているという描き方が面白い。不意を打たれたかのように、訪れる神の呼びかけ、そこから全く新しい使命、新しい人生が開かれていくのである。
 きょうのこの第1朗読箇所、出エジプト3章1-8a、13-15節では、むしろ神とモーセとの対話が重要である。「モーセは、神を見ることを恐れて顔を覆った」(3・6)としているが、ことばを通して、神ご自身について、そしてモーセに与える使命について告げ知らせる。ここでの召命と派遣は、モーセ個人の人生にとってだけでなく、イスラエルの民すべてにとって決定的な意味をもつことになる。燃える柴の中でのモーセのこの神のことばへの振り向きは、歴史の新しい段階の発端となる。モーセのこの振り向きの姿勢は、神に従う民の回心と使命への目覚めの象徴である。その姿が、我々の四旬節への呼びかけにもなる。
 第2朗読の一コリント書10章1-6、10-12節では、モーセに率いられてエジプトから脱出した民の歩みが思い起こされる(出エジプト13・17-22、14~15章参照)。そして、そのあとマナという食べ物を恵まれたこと(出エジプト16章参照)、またホレブの岩からほとばしる水で渇きをいやされたこと(出エジプト17・1-7参照)を指して「皆、同じ霊的な食物を食べ、皆が同じ霊的な飲み物を飲みました」(一コリント10・3-4)とパウロは語る。水をもたらした岩が「霊的な岩」であり、「この岩こそキリストだったのです」(4節)と。ところが、このような導きと恩恵を受けたにもかかわらず、神のみ心に適わなかった民は滅ぼされた(5節参照)。それが戒めの前例だとされる。「前例」とは「前表(予型)」という考え方のもとになるもので、旧約聖書のいわゆる予型論的解釈(旧約の出来事を神の救いの計画に従ってキリストの生涯を前もって示す事として説き明かす方法)の代表的な箇所である。旧約の歴史を思い起こすことが現在の我々に対する戒め(よき前例でもあり反省すべき前例でもある)となるという、それは、実践的、歴史教育的な聖書解釈といえる。
 きょうの福音朗読箇所ルカ13・1-9節で、そこでイエスの「あなたがたも悔い改めなければ、皆同じように滅びる」という言葉を繰り返す(3節、5節)。悔い改めの呼びかけは個人の人生の範囲にとどまらない。現代の地球世界、人類の現実にまで広がる意味での、反省・回心・自己変革が呼びかけられている。こうして、きょうの三つの朗読はどれも、神の民全体の命運にかかわる召命や回心を語る。表紙絵のモーセの振り向きからその大きな一歩が始まる。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

エジプト王が苦しめれば苦しめるほど、イスラエル人は多くなって、エジプト人よりも強くなっていきました。それでおこった王は、イスラエル人に男の子が生まれたら、すぐナイル川にすてるように命令しました。
オリエンス宗教研究所 編『わたしの聖書』「モーセの物語」本文より

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