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2019年年頭言

他者と共に生きる恵みを願って
            オリエンス宗教研究所所長 コンスタンチノ・コンニ・カランバ

 新年のお慶びを申し上げます。昨年は、日本をはじめ世界各地で自然災害の多い年でしたが、本年が皆様にとって、祝福・恵み・平安に満ちた年となるようにお祈りいたします。いつも当研究所の刊行物をご愛読いただき、感謝申し上げます。こうして、少しでも多くの方の心に福音の喜びの種がまかれ、神との交わりと他者との良好な関係が築かれていくなら、私たちにとってもこの上ない幸せです。
 さて、年頭にあたり、人間が人と交わる存在であることが見失われつつある今日、人の温もりが感じられる人間らしい社会を目指して、他者と関わることの大切さをテーマに、ご一緒に考えてみたいと思います。
 「昔はよかった。少し息苦しい場面もあったけれど、家族や地域コミュニティーが生き生きとして、人とのつながりを重んじていた」と、懐かしく叫ぶ声をしばしば耳にします。現代社会では、他者と共に生きる社会的な存在としての人間の本質、すなわち人とのつながりが希薄化してしまいました。近頃、蔓延している無関心、孤独感がその表れです。イギリスのレガタム研究所の2017年の調査報告によれば、社会の結束力、人間関係の豊かさを示すソーシャルキャピタル(社会関係資本)の結果は、世界149カ国のうち日本は101位となっています。そればかりか親から十分な愛情が注がれない子どもが多く、学校や職場、教会でも見られるいじめなどの問題は、他者との関係にかかわる深刻な状況として考えていく必要性を感じます。行き過ぎた個人主義が広がり、神が存在していないかのように振る舞い、物事が自分に関係なく淡々と進んでいくようにも見える社会の中で、どうすればよりよい人間関係を築けるのでしょうか。
 それは魔法の杖≠ナ解決できることではありません。むしろ、他人とかかわればかかわるほど、悩み事、疲れ、ストレス、嫉妬などが増えていきます。時には不愉快な気持ちで人生が息苦しくなってしまうこともあるでしょう。この世界は多様性に満ちており、人と関わるにも、なかなか一筋縄ではいきませんし、人間関係に労苦が付きものなのは現実のことなのです。ただその一方で、人間はだれであっても、(人とかかわって傷つくのは嫌だと思う人も含め)どこかで人とつながりたい、だれかと友達になりたいという気持ちを持っていることでしょう。人は一人では生きられず、周囲の人々に支えられて、あるいは人との関係があるからこそ、人生を生き抜くことができるからです。また、こういった経験を通して、人生の悩みに取り組む方法を学んでいくこともできます。
 既に日本社会では、自然災害が発生した際には、互いに見ず知らずの人であっても、きずなを強め、他者を力づけ、生きてゆく勇気を与えるような助け合いの精神が定着してきました。それならば、災害時に限らず、日々の生活においても互いに助け合い、尊敬し合って共に成長することができるはずです。
 私たちは人間の本来の姿に立ち戻る必要があります。愛における交わりの源である神の神秘に近付くことで、自分という存在が神に愛され、また、さまざまな人々のおかげで生かされているということに気付かされます。私たちは自分と神との交わりだけを重視して、隣の人を無視することはできません。人々が共に生き、支え合っているという社会の基礎をいま一度思い起こし、これを確保していくべきなのです。
 さらにキリスト者は、なおさら、この交わり・連帯の精神を意識して生きるように求められています。他者に対し、寛大さ、共感、関心などを寄せることは、単なる恩返し≠ノとどまらず、「あなたがたの父が憐れみ深いように、あなたがたも憐れみ深い者となりなさい」(ルカ6・36)という聖句に根ざした実践になるからです。私たちにとって他者とは、愛さずにはいられない兄弟姉妹だと受けとめるべきです。教皇フランシスコが強調するように、他者とのふさわしい関係を弱める自己の心の壁を打ち破り、多文化・多元思考・多民族社会を促進する出会いの文化≠大切にしていきたいと思います。本年もご一緒に、平和の橋を架け続ける者になりましょう。


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