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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年10月1日 年間第26主日 A年 (緑)  
悪人が自分の行った悪から離れるなら、彼は自分の命を救うことができる (エゼキエル18・27より)

預言者エゼキエル(部分)
モザイク 
ギリシア テッサロニキ オシオス・ダヴィッド聖堂  5世紀
 
 ギリシア都市テッサロニキのオシオス・ダヴィッド聖堂の祭壇域は半円蓋で覆われており、その壁を飾るモザイクの一部がこのエゼキエルの図である。モザイク芸術の歴史の中ではラヴェンナと並んで初期の作例に属するものとされる。預言者エゼキエルの姿は、ほんの一部分で、元々のモザイクでは中心に、全身が大きな円光に包まれて虹の上に座しているキリストを描く「荘厳のキリスト」図である。キリストは右手を高く掲げる祝福のしぐさをし、左の手は巻物を持ちつつも、それが開かれて下に伸びているという構図である。円光の四隅には、人、獅子、牛、鷲という四福音記者の象徴が描かれている。このような主の顕現の図は、エゼキエル書1章の四つの顔の生き物に囲まれた主の顕現の様子を前提としており(黙示録4章も同様)、その関連で、キリストの左下のほうにこのエゼキエルが描かれている。
 エゼキエルの姿は樹木の繁る岩山で前かがみになって両手を耳もとに置き、じっと何かを聞こうと身構えている。このような描き方は、とても珍しく、また深い印象を放つ。エゼキエル1章の末尾「そのとき、語りかける者があって、わたしはその声を聞いた」(1・28)にあたるだろう。エゼキエル書に結実するすべての神のことばがここに臨んでいると考えることができる。エゼキエルが見た主の顕現、聞いた主のことばは、このモザイクの中では、キリストの顕現、キリストのことばとして説き明かされているといえる。このような預言者とキリストとの関連づけは、ミサにおける旧約朗読と福音朗読との関係に通じている。
 この機会に、主日の聖書朗読におけるエゼキエル書の位置について考えみよう。イザヤ、エレミヤ、ダニエルと並んで四大預言者の一人で、全48章という大きな書物となっているエゼキエル書から、主日のミサで朗読される機会は少ないほうである。A年では3回(年間第23主日と、きょうの年間第26主日、王であるキリスト)、 B年で2回(年間第11主日と第14主日)、C年では読まれない。待降節・降誕節の主日にも読まれることはない。四旬節にはA年の第5主日に読まれるが、他の年には登場しない。そんな中でも、エゼキエルの預言がはっきりと印象づけられるときがある。それは復活徹夜祭である。この典礼を特徴づける七つの旧約朗読の第七の朗読になっている(36・16-17a,18-28)。洗礼と関係が深い内容であるために選択されることが多い。「わたしは清い水をお前たちの上に振りかけ、新しい心を与える」(36・25-26参照)を主題句とし、キリストの復活の約束、入信の秘跡の予告とも考えられて内容の箇所である。
 エゼキエルは、この箇所にもよく示されるように、バビロン捕囚を体験している民に回心を呼びかけ、救いの希望を告げるという使命に立つ預言者である。とくに、きょうの年間第26主日(A年)の第一朗読箇所は、まさしく回心をテーマとする典型的な箇所である。「悪人が自分の行った悪から離れて正義と恵みの業(わざ)を行うなら、彼は自分の命を救うことができる。彼は悔い改めて、自分の行ったすべての背きから離れたのだから、必ず生きる。死ぬことはない」(エゼキエル18・27-28)。エゼキエルの伝える神のことばの力強さ、明確さは、比類がない。きょうの福音朗読箇所(マタイ21・28-32)で、イエスは、ある兄弟のエピソードを語りながら間接的に回心のことを教えているが、そこに隠されている神の直接のメッセージがエゼキエルの預言を通して告げられているともいえる。イエスの話の根本にある神の意志がはっきりと語られているのである。
 ちなみに、きょうの第2朗読箇所はフィリピ書2章1-11節(長い場合)。その後半には、受難の主日の第二朗読、そして聖金曜日の典礼の詠唱で歌われる2章8-9節(「キリストは神の身分でありながら……」)が含まれる。
 聖週間の時期とおよそ半年離れたこの9月~10月の主日の聖書朗読には、キリストの受難の想起が隠れたテーマとして流れている。そこに含まれる、きょうの我々に対する神の呼びかけを、表紙絵のエゼキエルのように、耳を澄ませて聴いていこう。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(A年)●典礼暦に沿って』「年間第26主日」

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