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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年10月29日 年間第30主日 A年 (緑)  
あなたの神である主を愛しなさい。隣人を自分のように愛しなさい
  (福音朗読主題句 マタイ22・37-39より)

シナイ山で律法を受けるモーセ
フィレンツェ 洗礼堂「天国の門」の彫刻 R.ギベルティ作
1452年 

 ロレンツォ・ギベルティ(生没年1378/81頃-1455)はフェレンツェの金銀細工師、彫刻家、建築家、美術著述家。その代表作である、旧約聖書の10の物語を表した、フィレンツェの洗礼堂門扉の10点の浮き彫りパネルであり、その一つが、この「シナイ山で律法を受けるモーセ」である。直接のもとは出エジプト19章にある。
 旧約の律法の始まりを描き出す場面とともに、きょうの聖書朗読、とくに福音朗読箇所を味わっていくことにしたい。きょうの福音朗読箇所マタイ22章34-40節は、最も大切な掟の福音であり、神への愛と隣人への愛を告げる、よく知られた箇所である。この掟自体、律法の中にすでにあるものとし、イエスはその重要性を説く。神への愛については、申命記6章5節、隣人への愛についてはレビ記19章18節がそのもとである。すなわち、もともと神の律法の中にあった教えをあらためて、決定的な形で示しているのである。
 あの愛の掟が律法に深く根ざしていることを考えさせるのが、きょうの第一朗読である出エジプト記22章20-26節である。そこでは、寄留者、寡婦、孤児ら、社会的な弱者に対する慈悲、慈愛、憐れみを呼びかける神のことばである。そのもとには、「あなたたちはエジプトの国で寄留者であったからである」(出22・20)というイスラエルの民の記憶がある。そこで、寄留者として、弱者として受けた神の恩恵を忘れずに、神に感謝するとともに、同じ苦しみを受けている人々のことを絶えず顧み、助ける存在になるように、というメッセージがある。神への愛には、まず人、そして神の民を愛しておられる神に愛を返すという意味がある。そのことも併せて考えさせる、二つの愛を結びつけるイエスの教えの深さがある。
 このように考えると、モーセを通して授与された旧約の律法の本来の授け主はキリストであるという理解をもつことができる。神への愛と隣人への愛の掟を「律法全体と預言者」の土台である、という宣言は、まさしく、イエスと旧約聖書の関係を鮮明化する。表紙作品は、モーセへの神の掟、律法の授与の場面を描くものだ(出エジプト19章参照)だが、その根源には、キリストがいるとして読み解いていくことが大切であろう。それが新約聖書の律法観であるといえるし、A年の主日の聖書朗読の中心であるマタイ福音書は、まさしく旧約の完成者としてのイエスをあかししている。「わたしが来たのは律法や預言者を廃止するためだ、と思ってはならない。廃止するためではなく、完成するためである」(マタイ5・17)という、マタイ固有の箇所がそのことを示す。
 二つの愛の掟を中心に置くとき、それは、モーセを通して授けられた十戒(出エジプト20章参照)の精神を端的に要約していることも見えてくる。「主を愛しなさい」も、日々、神を敬い、祈り、礼拝することが生き方の根本となるようにという礼拝への呼びかけでもあり、生き方の根本を告げる呼びかけでもある。それは主なる神を信じ、いかなる像も造らず、御名をみだりに呼ぶことなく、安息日を聖別せよという掟を包括し、その根本を「愛する」こととして示している。父母を敬い、人を殺してはならず、姦淫してはならず、盗んではならず、偽証してはならない、などの人倫の根本も、隣人への愛の具体的な展開であることがわかる。それを愛ということばで包括したときに、それは律法の精神を表示するだけでなく、新約の霊性を表すものともなる。
 これらの関連性をパウロもローマ書でとらえている。「互いに愛し合うことのほかは、だれに対しても借りがあってはなりません。人を愛する者は、律法を全うしているのです。『姦淫するな、殺すな、盗むな、むさぼるな』、そのほかどんな掟があっても、『隣人を自分のように愛しなさい』という言葉に要約されます。愛は隣人に悪を行いません。だから、愛は律法を全うするのです」(ローマ13・8-10)。ヨハネ福音書が伝えるイエスの「互いに愛し合いなさい」という「新しい掟」(ヨハネ13・34、15・12参照)も思い起こさせるこのローマ書の箇所は、また、二つの愛の掟が主の祈り(マタイ6・9-13)の精神ともつながっていることを考えさせる。
 愛の掟は、このように、旧約と新約を一つに結ぶものであり、神の教えの根源を示している。それを教会は、祈りとして受け継ぎ、神の民としての歩みを続けているのである。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(A年)●典礼暦に沿って』「年間第30主日」

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