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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年12月3日 待降節第1主日 B年 (紫)  
わたしたちは主イエス・キリストの現れを待ち望んでいる (第二朗読主題句 一コリント1・7より)

荘厳のキリスト 
写本表装のエマイユ 
パリ クリュニー美術館 12世紀前半

 表紙絵は、聖書写本の表装を飾るエマイユ作品で、中世における主要画題の一つであった「荘厳のキリスト」を描くもの。四隅に四福音記者の象徴が配されている。左上が人の象徴(マタイ)、右上が鷲(ヨハネ)、右下が牛(ルカ)、左下がライオン(マルコ)を意味するというのが一般である。福音記者が四隅に配される方形が宇宙全体をも象徴するとされ、アーモンド型の光背のうちに、荘厳のキリスト、全能の主であるキリストが厳粛な面持ちで描かれている。玉座では、その大きさと、そこに座すキリストの姿の膨らみや奥行きが強調されている。神の栄光の充満を意味する金色がベースとなり、そこに、緑、赤、黒、水色など、多彩色がバランスよく配されており、観る者の鑑賞をいつまでも引き寄せる。
 キリストの肩の両脇に記されたギリシア文字のアルファとオメガは、もちろん黙示録1章8節の「神である主、今おられ、かつておられ、やがて来られる方、全能者がこう言われる。『わたしはアルファであり、オメガである。』」を想起させる。荘厳のキリストの図は、全能の主の図と言ってもよい。御父の右に座すキリスト、「(目に)見えない神の姿」(コロサイ1・15)である御子キリストの図である。
 そして、この図を、きょうの待降節第1主日、主を待ち望むことを主題とする聖書朗読を味わうヒントにしたいと思う。待降節とは、「神の子の第1の来臨を追憶する降誕の祭典のための準備期間であり、また同時に、その追憶を通して、終末におけるキリストの第二の来臨の待望へと心を向ける期間でもある」(「典礼暦年と典礼暦に関する一般原則」39)。とくに第一主日の聖書朗読は、キリストの来臨への待望を呼び起こすメッセージが三つの朗読を通して告げられる。福音朗読箇所はマルコ福音書13章33-37節。イエスが弟子たちに語った終末における人の子の来臨の予告に続き、「目を覚ましていなさい」(13・37)と告げるところである。一見、戒めのように聞こえるが、それ以上に、これは、来臨への力強い約束の福音である。
 第二朗読箇所(一コリント1・3-9)で、使徒パウロは、「あなたがたは……わたしたちの主イエス・キリストの現れを待ち望んでいます」(7節)とコリントの信者たちのあり方を認め、「主も最後まであなたがたをしっかりと支えて」(8節)くれていると確証を与え、来臨の約束がいかに恵みであるかを語っている。
 このような主の来臨を待ち望む熱烈な気持ちが旧約時代からのものであることが、第一朗読箇所のイザヤ63章、64章からの抜粋朗読(63・16b-17,19b、64・2b-7)からわかる。この箇所を含むイザヤ書の第三部(56-66章。第三イザヤとも呼ばれる)は、バビロン捕囚から解放され、帰国したイスラエルの民が、廃墟と化したエルサレムの都の状態や周辺の民からの迫害などのため困難を極めたなか、預言者は神に向かって切実な嘆願をささげている。この朗読箇所の直前の63章15節では、神に向かって「どうか、天から見下ろし、輝かしく聖なる宮から御覧ください」とあったが、嘆願の気持ちは高まり、この朗読箇所では「どうか、天を裂いて降ってください。御前に山々が揺れ動くように」(19節b)となる。
 そのような神の介入は天変地異を伴うものとして、聖書では描かれる。出エジプト19章16-19節では「(シナイ)山全体が激しく震えた」(18節)、詩編18・8-16では「山々の基は震え、揺らぐ」(8節)と。山全体の揺れ動きの根本にある、天からの介入の徹底さを示すのがイザヤの「天を裂いて」なのだろう。きょうの福音朗読箇所の前にある、人の子の来臨を予告するイエスのことばの中には「天体は揺り動かされる」(マルコ13・25)とあるのが思い起こされる。マルコ福音書は、イエスの死の直前に「全地が暗くなり」(15・33)、息を引き取ったときには、「神殿の垂れ幕が上から下まで真っ二つに裂けた」(38節)と記す。これらの表現もイエスにおいて神自身の到来、現れがあったことのあかしとなっている。そう考えると、表紙絵に描かれる玉座のキリストを包む、アーモンド型の光背は、「天を裂いて」のキリストの現れを示す表象として見えてくる。
 ちなみに、今、ミサでは主の祈りに続く祈りの中で「わたしたちの希望、救い主イエス・キリストが来られるのを待ち望んでいます」という司祭の祈りに心を合わせ、「国と力と栄光は、永遠にあなたのもの」と御父に向かって賛美を叫ぶ。ミサはいつも主の来臨の待望の営みである。そのことを一年の典礼暦の最初の日である待降節第1主日は、中心の主題として意識化させてくれるのである。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(B年)●典礼暦に沿って』待降節第1主日

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