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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年12月10日 待降節第2主日 B年 (紫)  
神の子イエス・キリストの福音の初め (マルコ1・1)

福音記者マルコ
ランス大司教エッボの朗読福音書挿絵
フランス エペルネ市立図書館 9世紀初め 

 待降節第2主日B年のきょうの福音朗読箇所は、マルコ福音書の冒頭の1章1-8節。そのメインの登場人物は洗礼者ヨハネであり、彼の現れを予告したものとして引用されるイザヤ書の「主の道を整え、その道筋をまっすぐにせよ」(1・3)が待降節第2主日のメッセージとして我々にも向けられる。第一朗読では、その句を含むイザヤ書40章1-5、9-11節が読まれる。
 このような箇所なので、洗礼者ヨハネの図像を表紙絵に掲げられることも多いが、次週も同様なので、今回は、少し視線を変えて、マルコ福音書の最初の一文「神の子イエス・キリストの福音の初め」(1・1)に注目し、福音記者マルコをクローズアップしている。中世の朗読聖書挿絵では、四人の福音記者を描くものが非常に多い。マルコを描くこの表紙絵には、マルコを象徴する翼を持ったライオンも右上に描かれている。中世において福音記者の人物像も、その象徴も好んで頻繁に描かれていたということの意味を今回、考えてみたい。
 その出発点は「福音」(ギリシア語エウアンゲーリオン)にある。今日、一般には、四つの福音書の中で、最も古くに書かれたのはマルコであり、マルコが「福音書」というスタイルの書を始めた、といわれる。
 この1章1節「神の子イエス・キリストの福音の初め」に続いて、B年の年間第3主日の福音朗読箇所に含まれている1章14-15節「ヨハネが捕らえられた後、イエスはガラリヤへ行き、神の福音を述べ伝えて、『時は満ち、神の国は近づいた。悔い改めて福音を信じなさい』と言われた」が、イエスと福音の関係を示す典型的な文章になっている。もっとも、「福音」という語を最初に、そして頻繁に記すのはパウロであることは明らかである。今、新共同訳聖書の語句索引で数えてもローマ書からフィレモン書まで「福音」という語の用例は97箇所ある。
パウロが福音について述べている箇所の中で、それが福音書と関連していたであろう、と考えられる箇所がローマ書16章にある。「神は、わたしの福音すなわちイエス・キリストについての宣教によって、あなたがたを強めることがおできになります。この福音は、世々にわたって隠されていた、秘められた計画を啓示するものです。その計画は今や現されて、永遠の神の命令のままに、預言者たちの書き物を通して、信仰による従順に導くため、すべての異邦人に知られるようになりました」(ローマ16・25-27)。
 福音すなわち良い知らせ(イザヤ61・1参照)が、特別な意味となってイエス・キリストの宣教、イエス・キリストを告げ知らせるものとなる、ということと同時に、福音は、世々にわたって隠されていた、秘められた神の計画の啓示するものなのであり、それが今や現されていて、すべての人に知られるようになっているという理解がある。この理解に基づいて、福音書は、まさにイエス・キリストにおいて神の秘められた計画が現されていく過程を告げ知らせるものなのだ、いうことである。
 きょうの福音朗読箇所も、イザヤ書が告げ知らせたとおりに、洗礼者ヨハネが現れ、やがて、それがイエスの登場の出発点になる、という流れで、マルコはイエスを告げ知らせ始める。ちなみに、新共同訳聖書で「秘められた計画」と訳されている語は、ギリシア語のミュステーリオンで、ラテン語でミステリウム、最近の日本の典礼では「神秘」と訳されている語である。ミサの奉献文の中心部分で「信仰の神秘」と告げられるときの「神秘」も同じであり、根本的には「キリストの神秘」というときの「神秘」である。ローマ書の述べ方に従うと、福音書はまさにキリストの神秘を告げ知らせる書にほかならない。
 その神秘を託され、人々に告げ知らせる役割を担い、果たした福音書の著者たちは、神秘への扉を開く大切な使命を果たした人々として、特別な尊敬を集めていたということが考えられる。イエス・キリスト神秘、その福音への思いの深さに比例して、福音記者への崇敬は厚かったのであろう。旧約の預言者に匹敵する、いやそれを超える福音記者の人物像としての表現にこれだけ筆を費やす精神は、今、福音朗読に耳を傾ける我々もならうべきであろう。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(B年)●典礼暦に沿って』待降節第2主日

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