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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年12月17日 待降節第3主日 B年 (紫)  
彼は光ではなく、光についてあかしするために来た (ヨハネ1・8)

前駆者(洗礼者)ヨハネ
テンペラ画 
キプロス ニコシア ビザンティン美術館 11世紀初め

 きょうの福音朗読箇所ヨハネ福音書1章6-8、19-28節の冒頭「神から遣わされた一人の人がいた。その名はヨハネである」(6節)にちなんで、洗礼者ヨハネの肖像画(イコン形式のテンペラ画)が掲げられている。東方教会ではギリシア語で「プロドゥロモス」(前駆者、先駆者)と呼ばれるヨハネである。この作品が作られたキプロス(現キプロス共和国)は、古くはパウロの第1回宣教旅行にも登場する初期からの宣教地である(使徒言行録13・4-12参照)。その後はギリシア正教会の地となり、16世紀にはオスマン帝国の支配下に入るが、そこでも正教会の主教が総督の地位を認められてイスラム帝国の中でもキリスト教の伝統を守ってきた。
 この絵の洗礼者ヨハネは、身を傾けて誰かを指し示そうとしている姿勢と顔つきで描かれている。この描き方がヨハネらしさをよく表しているように感じられる。とりわけ、きょうの福音朗読箇所では、洗礼者ヨハネが「光について証しをするため」(7節)に来たことを強調している。「彼は光ではなく、光について証しをするために来た」(8節)のだと。エルサレムのユダヤ人たちの問いかけに対して、結局、ヨハネは、メシアでもなく、エリヤでもなく、あの預言者でもないことを示す。そして、積極的な返答としては、「あなたがたの中には、あなたがたの知らない方がおられる」(26節)と語る。こうして、イエスの到来を「すでにおられる」ということであかししている。救い主の到来に対する予告だけでなく、すでに来ておられることが、待降節の後半、この12月17日を境にして典礼の基調となっていく。待降節第3主日が伝統的に「喜びの主日」と呼ばれ、入祭唱の「主にあっていつも喜べ。重ねて言う、喜べ。主は近づいておられる」(フィリピ4・4-5)が示すように、主の到来の喜びを告げる主日であることを思うとき、この絵の中の洗礼者ヨハネが示すすぐ先に、イエスがおられることを感じていきたい。
 ちなみに、福音朗読箇所で、「あなたはエリヤですか」(21節)と問いかけられているのは、当時においてマラキ書の預言「見よ、わたしは大いなる恐るべき主の日が来る前に、預言者エリヤをあなたたちに遣わす」(マラキ3・23)をもとに、終末の審判の前に人々を回心させるためのエリヤの到来が待望されていたという背景がある。これが洗礼者ヨハネの登場の状況である。先週の待降節第2主日(B年)の福音朗読箇所(マルコ1・1-8)で聞いたように、実際、洗礼者ヨハネの風体「らくだの毛衣を着、腰に革の帯を締め」(マルコ1・6;マタイ3・4参照)はエリヤのようであり(列王記下1・8「毛衣を着て、腰には革帯を締めていました」)、そして、罪の赦しを得させるために悔い改めの洗礼を宣べ伝えた」(マルコ1・4)のであった。
 しかし、終末の裁きに備えることを呼びかける洗礼者ヨハネの登場と洗礼授与の活動は、まさしく、より大きな存在、すなわちメシア(救い主)であり神の子である方の到来、ヨハネ福音書的にいえば「恵みと真理」(ヨハネ1・17)である方の先駆けであるということがより重要である。その方の現れに身を譲るようにして、その方を示す、この絵の洗礼者ヨハネの姿は、我々の福音宣教の模範に感じられる。洗礼者ヨハネはイエスのことを「わたしの後から来られる方」(ヨハネ1・27)と語る。我々は、そのイエスの後に来る者でありつつ、イエスを示す者となる使命を授かっている。
 洗礼者ヨハネがイエスについて語ることば「見よ、世の罪を取り除く神の小羊だ」(ヨハネ1・29)がミサの平和の賛歌(アニュス・デイ)に取り入れられていることは興味深く、とても重要である。彼がイエスの前駆者、先駆者であるならば、我々は同じあかしのことばをもって、『主の道をまっすぐにせよ』(ヨハネ1・23;イザヤ40・3-4参照)という神のことばを果たすために後駆ける者、主イエスの後に従う者である。その生き方は、まさしく、第二朗読箇所(一テサロニケ5・16-24)で使徒パウロの「いつも喜んでいなさい、絶えず祈りなさい、どんなことにも感謝しなさい」(16-18節)という呼びかけに応えるものとなっていくであろう。感謝の祭儀は、そのためにキリスト自身によって授けられ、神の民によってささげられ続けている。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(B年)●典礼暦に沿って』待降節第3主日

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