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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2024年1月1日 神の母 (白)  
マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた(ルカ2・19より)

謙遜の聖母と天使
シルヴェストロ・デイ・ゲラルドゥッツィ画
イタリア フィレンツェ アカデミア美術館  1370-75年頃

 神の母聖マリアの祭日にちなんで聖母子を描く絵に注目する。作者シルヴェストロ・デイ・ゲラルドゥッツィは1339年生まれで、カマルドリ修道会のフィレンツェにあるサンタ・マリア・デグリ・アンジェリ修道院の修道士で、修道院長をも務めたという。謙遜の聖母と主題化される聖母マリアと幼子の様子である。やや硬質な描写だが、マリアも幼子も眼差しを観る者のほうに向けている点は注目される。マリアの両側には天使たちが敬虔な礼拝姿勢をもって画が描かれている。真上から半身を示しているのは、この関連だと父なる神ということになる。聖母子に向かって描かれているのは鳩と思われ、それによって聖霊の注ぎを表現しているのだろう。なによりも、背景の全体を占める金色の輝きがまばゆく、印象的である。
 さて、1月1日は、ローマ教会で伝統的にマリアを記念する祝祭日であるが、その出発点は1月1日が12月25日の主の降誕から8日目であるというところにある。この日の福音朗読箇所ルカ2章16-21節では、降誕の夜の出来事の続き、すなわち、羊飼いたちが救い主の誕生を告げ知らせ、神を賛美していく様子があたかも降誕の感動の余韻のように語られる。そこに、誕生から8日たって割礼を受け、「イエス」と名付けられたことが語られる。「あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい」(ルカ1・31)と、いうお告げの中で約束されていた、「神は救う」を意味する「イエス」という名が実際に幼子に付けられたということは、神の御子である救い主としてのイエスの地上での歩みが本格的に始まることを意味している。そして、そこにはマリアがともにいる。幼子イエスにつき従うマリアを敬い、記念するきょうの祭日である。
 朗読箇所の中で、マリアについて直接言及されるのはただ一文「マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた」(ルカ2・19)だけである。しかし、この「思い巡らし」は、キリスト者にとって、信仰の中で救いの神秘、キリストの神秘に深く心を向ける瞑想や黙想の始まりであり、模範となっていく。イエスの生涯へのマリアの同伴は、今後も明示的に言及されなくても、ずっと続いていたものと想像することができる。その極みは、言うまでもなくヨハネ福音書が意味深く語る、イエスの十字架上での死のときのマリアの同伴である(ヨハネ19・25-27)。
 マリアのイエスへの同伴ということは、真実においては、マリアへの主の同伴、神の御子の同伴だったのであろう。その意味するところが「祝福」にほかならない。天使ガブリエルがマリアのところに遣わされて告げた最初のことば「おめでとう。恵まれた方。主があなたと共におられる」(ルカ1・28)が示すとおりであり、マリアを迎えたエリザベトが「あなたは女の中で祝福された方です」(1・42)と声高らかに言ったとおりである。「今から後、いつの世の人もわたしを幸いな者と呼ぶでしょう」(1・48)とマリアの賛歌で歌われているように、神の計画、み旨の実りである御子イエスを受け入れることには祝福と幸いが含まれている。このことを体現する聖マリアと幼子イエスとともにいる聖母子像のうちに、人々は、幸いなる人生への希望と憧れをこめていったのだろう。
 マリアの姿にすべての人への神の祝福と、より高い使命への招きが凝縮されている。その祝福の意味を、きょうの第一朗読箇所=民数記6章22-27節も示している。旧約の神の民に向けられた、神の祝福と照らし、恵みと平安を約束するそのことばは、イエスとマリアを通して、今やすべての人に向けられ、一人ひとりが神の民となるよう招いている。第二朗読箇所ガラテヤ書4章4-7節が告げる「時が満ちると、神は、その御子を女から、しかも律法の下に生まれた者としてお遣わしになりました。それは、……わたしたちを神の子となさるためでした」(4-5節より)の「時が満ちる」の表現として、この絵の金色の充満は実にふさわしい。この救いの歴史の実りに、新約の神の民である教会は、いつも感謝の祭儀(ミサ)を通じてあずかっている。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(B年)●典礼暦に沿って』神の母聖マリア

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