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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2024年4月21日 復活節第4主日 B年 (白)  
わたしは自分の羊を知っており、羊もわたしを知っている(ヨハネ10・14より)

良い羊飼いの彫像
パリ ルーブル美術館 3世紀末

 きょうの福音朗読箇所ヨハネ10章11-18節にちなみ、良い羊飼いを表現する、古代教会の作品が表紙には掲げられている。青年というよりも、少年に近い羊飼い像である。これがキリストを表現する像だといわれてもピンと来ないからもしれない。一般的なキリスト像は、髪が長く、髭を蓄えた壮年として描かれる。しかし、あのようなキリスト像が確立したのは15,6世紀以降であることは、この『聖書と典礼』の表紙絵として鑑賞してきた古代および中世のキリスト教美術における表現法からも知られていることだろう。
 そもそも良い羊飼いの像を描くというのは、キリスト教以前のギリシア・ローマ美術に由来する。死者の魂を司るとされるヘルメスという神が羊飼いの姿で描かれるという例もあった。この像がポピュラーであるという意味合いで、カタコンベ(キリスト者の地下墓所)や石棺彫刻においキリストが羊飼いとして描かれることの背景をもなしていたのだろう。そして、羊飼いの姿のうちに、信者たちは、死者の魂を天に運び、来世への旅路に待ち受ける悪霊の力に打ち勝つ主の姿を仰いでいたのだろう。
 いま、我々も、ヨハネ10章が伝える「わたしは良い羊飼いである」(10・11)というイエスのメッセージを真摯に、命懸けで聞いていくことになる。その前に、毎年の復活節第4主日の聖書朗読配分にある意図を見ておこう。
 この主日には、ABC各年とも共通に、ヨハネ福音書10章から朗読箇所が選ばれている。A年=10章1-10節、B年=10章11-18節、C年=10章27-30節である。この復活節第4主日から第5、第6主日は、すべてヨハネ福音書が朗読されることになる(13~15章)。イエスのことばを、今も生きてすべてを治めておられる主のことばとして教会は受けとめる。ヨハネ10章はその序章である。ここで、自分の羊を呼び、導く羊飼い(キリスト)の声を聞き分ける羊たちとして、復活節の教会は、新たに入信した人々とともに、すべての信者がキリストを頭として、神に導かれる民であるということを新たに自覚する。このことがまた、復活節第4主日が世界召命祈願日とされている理由でもあることは言うまでもない。
 さて、きょうはB年の福音朗読箇所(ヨハネ10・11-18節)にはユニークな特徴がある。A年で読まれるヨハネ10章1-10節では、イエスはまだ自らを羊飼いとは言っておらず、イエスは自らを「羊の門である」(7節)、「門である」(9節)と告げており、その文脈では「羊飼い」は父である神自身であったのに対して、B年の朗読箇所となる10章11節から、イエスは直接「わたしは良い羊飼いである」と語り出す。その中で一つの単語がたびたび繰り返されていることに気づかされる。「捨てる」という動詞である。「良い羊飼いは羊のための命を捨てる」(11節)、「わたしは羊のために命を捨てる」(15節)、「わたしは命を再び受けるために、捨てる」(17節)、「わたしは自分でそれを捨てる。わたしは命を捨てることもでき、それを再び受けることもできる」(18節)。
 日本の聖書の訳では「捨てる」と一般に訳されているギリシア語の単語は、端的に「置く」という意味である。文脈から、十字架で自分の命をささげることが“捨てる”と言われ、復活が“命を再び受ける”と言われていることがわかる。ただ、この「置く」という単語は、典礼の観点からも重要で、それは「差し出す」「供える」「ささげる」にも通じる。このことを心に留めておくと、感謝の祭儀(ミサ)での、奉献の行為との関連が見えてくる。羊飼いが、自らの命を羊のために差し出し置いていかれたことを思い起こす我々は、いまや、新たな命を受けられたその命にあずかる者となる。主から呼び求められているのは、我々自身も自らも命をささげる者となることである。感謝の祭儀(ミサ)は、まさに、良い羊飼いに導かれる羊たちの集い、牧場(まきば)である。聖体がこの羊たちが命をつなぐための永遠の命の糧であることはいうまでもない。日本の教会が独自に選んで聖体拝領前の信仰告白としている「主よ、あなたは神の子キリスト、永遠のいのちの糧。あなたをおいてだれのところに行きましょう」は、まさしく羊たちの信仰告白であると言える。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(B年)●典礼暦に沿って』復活節第4主日

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