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コラム

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藤田優香(礼拝会会員)
 主のご降誕おめでとうございます。多くの人と祝うこの日、現代の世相の中でもイエスが暗闇の中の光としてお生まれになっていることを忘れずにいたいと思います。
 私たちは、さまざまな形の暴力を受けている女性や子どもたちと出会い、ともに歩んできました。時には「虐待のある家庭から離す」という活動を緊急支援のネットワークを生かして行うこともあります。その時、「家庭や学校は安全な場所ではない場合がある」という子どもたちの現実に良き大人たちも混乱し、そして当の本人たちは不安に陥ることがしばしばです。ともに過ごした女性たちの中には、家庭内で深刻な暴力を繰り返し受け、体調が悪化していく最中に私たちと面接を重ね、警察等の公的機関を通して安全な場に逃げてきた人たちがいます。
 その一人であるAちゃんの口から出てくる言葉は、はじめ、すべて嘘でした。母親からは虐待を、学校ではいじめを受けていた彼女は、それでも母親を求めているようでした。何度約束しても門限を守らない彼女の話を、私は毎日数時間、ただただ聴いていました。その中で「嘘をつかれると私は悲しいなあ。でも話してくれてありがとう」とだけ伝えていました。そのうちに彼女は話を聴いてもらうために早く帰ってくるようになりました。
 Bさんは私たちの家に来てから、徐々に私を無視するようになりました。目の前に私がいてもラインでメッセージを交わし合う、そんな日々でした。クリスマスには手作りのケーキと沢山のプレゼントを用意しました。受け取ってはくれましたが何の言葉もありませんでした。
 その後、Aちゃんは無事に学校を卒業し、この家から出て新たなスタートを切り、その後も時々「ここは第二の故郷ふるさとだから」と言って訪ねてきます。Bさんは私たちのもとを発つ時に、置き手紙を残していきました。そこには「言葉が出なかったのは意地悪からではありませんでした。どうしても無理だったのです。絶えず関わろうとしてくださり感謝します」と記されていました。
 ヨハネ福音書には「言(ことば)の内に命があった」(1・4)とあります。彼女たちは、「嘘や無視」という暗闇からの叫びの状態から、私たちとの間に「小さないのち」を輝かせていったのです。主のご降誕を思いながら、これからも彼女たちとともに「恵みと真理」(1・14)へと導かれていきたいと祈っています。(『聖書と典礼』2023年12月25日)

『聖書と典礼』主の降誕(日中のミサ) (2023年12月25日)表紙絵解説

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