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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年7月29日  年間第17主日 B年 (緑)
イエスは座っている人々に、欲しいだけ分け与えられた(福音朗読主題句 ヨハネ6・11より)

パンと魚  モザイク  
イスラエル タブハ パンと魚の奇跡の教会 
5世紀

 タブハとは、イスラエルのガリラヤ湖北西岸の場所で、イエスがパンと魚の奇跡を行った地として伝えられ、その奇跡にちなむ教会。現在の聖堂建築は1984年のものだが、そこにある床モザイクは、5世紀のビザンティン時代の作である。実際に、その奇跡があったとされる地に描かれるパン籠と2匹の魚の簡潔な配置は、それでも、この出来事のもつ意味の深さ、豊かさを黙想するのにふさわしい作品だろう。
 きょうの福音朗読箇所はヨハネ6章1−15節が述べる二匹の魚と五つのパンの話だが、この朗読配分についてまず確認しておくべきことがある。それは、B年はマルコ福音書を中心に読む年とはいえ、きょうの年間第17主日から第21主日まではヨハネ福音書の6章が読まれていくという一見変則的な期間になるということである。これは、マルコが最も短い福音書であるために、ヨハネ福音書が補完的な役割をしているという意味もあるだろう。しかし、前後の主日で読まれるマルコ福音書の箇所と無関係にヨハネ福音書が挿入されているというわけではない。先週の福音朗読箇所マルコ6章30−34節の続きにあたる6章35−46節は、まさしくきょうのヨハネ福音書が語る五つのパンと二匹の魚で民を満たすというエピソードの並行箇所である。あたかもこの奇跡の話によって、音楽が速やかに転調するかのように、マルコ福音書朗読の流れからヨハネ福音書朗読の流れへと移行していくのである。
 これから8月の間に読まれていくヨハネ福音書の6章の説教の中で、イエスは自らを天から降ったいのちのパンであると告げていくことになる。そこからさかのぼれば、五つのパンと二匹の魚の出来事は、イエス自身の存在が、多くの人々の心の飢えを満たすものであり、それを上回るほどに豊かないのちの源なのだということを示していると考えることができるようになる。ちなみに同様のエピソードは、5000人に食べ物を与える話として、4福音書共通に出てくる。マタイ14章13−21節、マルコ6章32−44節、ルカ9章10−17節、そしてきょうの箇所ヨハネ6章1−14節。満たされた人は5000人、五つのパンと二匹の魚も同じ(ヨハネでは「大麦パン」となっている)。余ったパン屑は12かご分。パンと魚の上にするイエスの祈りについては、マタイ、マルコ、ルカでは賛美の祈り、ヨハネは感謝の祈りとする。ところで、似た話で、満たされた人が4000人、七つのパンと小さな魚が少し、余ったパン屑は7かごという話がマタイ15章32−39節とマルコ8章1−10節にある。この両方でイエスの唱える祈りは感謝の祈りとされている。
 どうしてこのようなことを確認したかというと、このときのパンと魚の上に唱えたイエスの祈りの行為とそれが賛美の祈り、あるいは感謝の祈りであったことは、最後の晩餐での祈り(マタイ26・26「賛美の祈り」、26・27「感謝の祈り」、マルコ14・22「賛美の祈り」、23「感謝の祈り」、ルカ22・19「感謝の祈り」、1コリント11・24「感謝の祈り」 )や、復活後の食事での祈り(ルカ24・30「賛美の祈り」 )を通じて、今日のミサにおける奉献文の祈りの源となっているからである。もっとも、そこには古代ユダヤ教の宗教生活の中にあった、神賛美(ベラカー)を旨とする会食儀礼が前身としてあるが、イエスによって、まったく新しい意味が注がれている。我々がともにささげるミサにおいて、この祈りと、パンや魚やぶどう酒の杯を分け与える行為を通して、イエスが自らを新しい永遠のいのちのための糧として与えてくださることが示される。このパンの増加の奇跡は、ひとときに起こった不思議な出来事という以上に、神が我々に対してきょうも、いつも贈ってくれている恵みの豊かさを物語る出来事である。
 そのようにこの出来事の意味を味わうとき、このモザイクにおける真ん中のパン籠と両側に上向きに描かれた魚が、なにやら意味ありげに見えてくる。パン籠は、キリスト、両側の魚は弟子たち,あるいは天使のように感じられてくる。あるいは十字架のキリストの両脇にいつも描かれたマリアと使徒ヨハネの姿さえも。古代では、救われた人間のことが、魚で表現されたことがある。落ち着いたパン籠と立ち上がったような魚がキリストと救われた人間を象徴しているのではないか……あくまで鑑賞的想像である。

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