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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年8月15日  聖母の被昇天  (白)
「あなたは女の中で祝福された方です」 (ルカ1・42より)


被昇天の聖母 浮彫 
ナンニ・ディ・バンコ作 
フィレンツェ サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂 15世紀初め

 この作者についてはそれほど知られていないので、生涯に関する情報を記しておこう。ナンニ・ディ・バンコ(Nanni di Banco)は、1380年〜90年頃にフィレンツェで生まれ、1421年に同地で没した彫刻家である。父親はフィレンツェ大聖堂造営の現場監督も務めた人。父親から彫刻を学んで、この聖堂の装飾の中でイザヤ像(1407)、聖ルカ像を製作した。オルサンミケーレ聖堂に外壁にも聖フィリポ像(1411)などを製作。それらにおいて、古典古代の彫像に対する知識と研究のほどを示し、高く評価されたようである。
 もっとも有名な作品は、表紙絵に掲げた被昇天の聖母、フィレンツェ大聖堂の「マンドルラの入口」と呼ばれるところにある浮彫である。「動勢にあふれ、リズミカルな抑揚をもち、そこでは彫刻的にみごとな量感をもち、いたって簡潔な形態の人物像が立体的に表されている」と評される(情報・引用とも小学館刊行『世界美術大事典』第4巻156 ページより)。
 マンドルラ(アーモンド型の光背)の中にいるマリアは、冠をいただき、天使たちによって押し上げられるようにして天に上げられていくところだろう。マリアの顔がやや下向きで地上を見ている感じが表現されている。光背の外側にも天使たちが描かれ、その生涯が完全な祝福に満たされていることを強調しているようである。その衣の襞(ひだ)の描き方も大変に細かく、色彩は見えないが、白も青も金色も思い浮かべられる。玉座の女王の趣もあり、そこには西欧の女性の姿の反映も感じられるが、その表情はあくまで純粋な信仰心を伝える。
 マリア崇敬の高まる中世の人々の信仰心がよく表現されているといえよう。
 さて、聖母の被昇天の祭日について振り返ってみよう。祭日としての聖母の被昇天の起源は、東方教会で8月15日に、マリアが死の眠りについたことを記念する祝日があったことにある。ギリシア語でコイメーシスという。しかし、マリアが死の眠りに就くことは、すなわち、神に全面的に受け入れられ、神のもとに上げられたことという意味で、取り上げられることを意味するアナレープシスというギリシア語で表されるようになった。この祝日が西方に入ってきたときには、当初は、死の眠りを指すラテン語のドルミティオで呼ばれていた。やがて、天に上げられたことを指すアナレープシスが名称として伝わってくると、そのラテン語としてアスンプシオと呼ばれるようになり、現代に至る。1950年にマリアの被昇天が信ずべき事柄つまり教理として宣言されたときに明確化されたのは、きょうの集会祈願にあるように、マリアが「からだも魂も、ともに天の栄光に上げられ」たという点であった。
 教理論上の細かいことはともかく、はっきりしているのは、マリアの生涯は、全面的に神によって受け入れられたということである。そして、そのことは、ルカ福音書がきょうの朗読箇所(1・39−56)で、その時点(イエスの誕生の前)では、予告的に告げられているところにすでにすべて言い尽くされているともいえる。エリサベトのことば「あなたは女の中で祝福された方です」(42節)、「主がおっしゃったことは必ず実現すると信じた方は、なんと幸いでしょう」(45節)、「今から後、いつの世の人もわたしを幸いな者と言うでしょう」(48節)。この「祝福された方」「幸いな者」ということばのうちにすでに神に受け入れられ、天に上げられるということが含まれている。教会は、マリアが生涯を通してそのような方であったことを信じ、ここでの予告のことばは同時に完成の証言であるものとして、「アヴェ・マリアの祈り」を唱え、「マリアの歌(マニフィカト)」は晩の祈りの福音の歌として歌う。それは、もちろん、自分たちの信仰の生涯にとっても、それが予告と約束のことばであり、また、終わりのときには完成の証言と称賛のことばとなるように願うからである。
 「祝福」と「幸い」、それが救いにほかならない。救いがただ単に窮地を脱する救出の意味だけでなく、神のいのち(永遠の命)に受け入れられることであるという意味を語る、きょうの福音である。

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