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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年11月11日  年間第32主日 B年 (緑)
この貧しいやもめは、だれよりもたくさん入れた (福音朗読主題句 マルコ12・43より)

エリヤとサレプタのやもめ 
小箱装飾 フィレンツェ  
パルジェロ美術館 12世紀

 エリヤとサレプタの出会い――きょうの第1朗読箇所である列王記上17章10−16節のエピソードにちなみにこの作品を掲げた。小箱のエマイユ装飾である。預言者エリヤのエピソードは列王記上17〜19章、21章、列王記下1、2章に見られる。いずれも、古くからキリストによる救いの実現を前もって暗示するもの(予型・前表)として解釈されている。その理解にのっとったきょうの福音と第1 朗読の配分でもある。
 第1朗読で読まれる箇所(列王記上17章10−16節)では、サレプタのやもめが差し出したわずかな小麦粉と油が尽きることがなかったというところまでで、そこの内容が、きょうの福音朗読箇所の短い方(マルコ12・41−44)に登場する貧しいやもめの献金との対応で選ばれている。
 サレプタのやもめにとって、一握りの小麦粉とわずかな油(列王記上17・12参照)は、自分と息子のために残された最後の食べ物だった。それをやもめは、「神の人」エリヤの「言葉どおり」(同17・15)にエリヤの食べ物として差し出す。すると、小麦の粉も油も尽きないほどとなった。このような神の恵みの奇跡が話の焦点だが、その姿は、たしかに福音に登場する「乏しい中から自分の持っている物をすべて、生活費を全部入れた」(マルコ12・44)貧しいやもめの姿と重なる。
 きょうの福音と第1朗読との対応点はまずそこにある。それに対して、この表紙作品が注目しているのは、第1朗読箇所の冒頭にある。すなわち、エリヤがサレプタの「町の入り口まで来ると、一人のやもめが薪を拾っていた」とあるところ(列王記上17・10)。やもめは、この薪を二本だけ拾って、それで一握りの小麦粉とわずかな油でパン菓子を作って、瀕死の息子に食べさせようとしている(12節参照)。そんなやもめに、エリヤは最初、水を持って来て、飲ませてくれるよう頼んだのである(10節参照)。
 このいわば導入のエピソードの中に登場する諸要素が、教父たちの解釈を刺激し、彼らはそこにキリストに関する出来事の象徴を見ることになった。すなわち、サレプタのやもめは異邦人の象徴、町の入り口で拾っていた薪は十字架の象徴、エリヤが持って来てほしいと言った水は洗礼の象徴だという解釈となる。この奇跡の根源にはキリストの十字架があり、その出来事を通して、異邦人への宣教がなされ、彼らには洗礼の秘跡という恵みが与えられているという見方になる。表紙作品もこのような解釈を土台にしている。やもめが抱えている十字架がそれを示している。列王記の文脈に沿えば、拾った薪を抱えているやもめに、エリヤが語りかけている場面ということになる。真ん中には文字の記された帯が描かれているが、そこにもたしかに「集められた二本の木(薪)にある尊い十字架の神秘」といった文言が見える。
 こうした解釈の枠組みだけではなく、ここでのエリヤとやもめの出会いとやりとりには、福音書で語られる他のさまざまな場面も連想させるものがある。「恐れてはならない。帰って、あなたの言ったとおりにしなさい」(13節)というエリヤの言葉。「恐れてはならない」はイエスの口から何度も聞かれる言葉である。また、やもめは、「エリヤの言葉どおりにした」(15節)というところにはマリアの姿も窺われる。
 実は、朗読箇所に続く列王記上17章17−24節では、彼女の息子が病気にかかって息を引き取るが、やもめの切願に応えてエリヤが祈ると、息子の命が元に返されるというエピソードがある。いうまでもなく、ラザロの復活(ヨハネ11・ 1−44)を思い起こさせる。
 福音朗読箇所を読むとき、なかなかキリストの十字架の出来事までは思いめぐらすことはできないかもしれない。それでも持っている物をすべて賽銭箱に入れた貧しいやもめの態度は、すべてを神のために、主のためにささげることを生き方の基本に置く人の先駆であるといえる。この自己奉献というテーマを考えたとき、はじめてキリストの十字架の出来事とのつながりが出てくる。そんなとき、第2朗読のヘブライ書が光を照らしてくれる。キリスト・イエスの十字架での自己奉献について語っているからである。それは、「ただ一度、御自身をいけにえとして献げて罪を取り去るため」のものであった(第2朗読 ヘブライ書9 ・26参照)。大祭司であるキリストの十字架での奉献にあずかるようなキリスト者の生涯となるべく、自らのものをすべて神にささげようとする人に約束される祝福が暗示される、きょうの聖書朗読である。

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