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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2019年1月13日  主の洗礼 C年 (白)
イエスが洗礼を受けて祈っておられると、天が開けた (福音朗読主題句 ルカ3・21より)

ヨルダン川 
イエスの洗礼の場所とされる地
「ヨルダン川対岸のベタニア」(世界文化遺産・二〇一八年撮影)

「あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」――この天からの声(父である神の声)が、イエスの洗礼の出来事の核心を示している。キリスト教美術の中でも、イエスが洗礼者ヨハネから洗礼を受ける場面は、重要なテーマとして描き続けられているが、きょうの表紙に掲げられたのは、イエスが洗礼を受けた場所とされるヨルダン川対岸のベタニアの洗礼記念地を、今年旅して見学してきた方からの提供写真である。世界文化遺産になっているということで、最近は情報も多い。実際に洗礼者ヨハネからイエスが洗礼を受けたという歴史的事実をたどり記念する現代の動向も心に留めつつ、聖書の叙述に向かおう。四つの福音書は、ともに、イエスが洗礼者ヨハネから洗礼を受けたことを語っているが微妙なところで違いがある。
 マルコ1章9ー11節は、「そのころ、イエスはガリラヤのナザレから来て、ヨルダン川でヨハネから洗礼を受けられた。水の中から上がるとすぐ、天が裂けて“霊”が鳩のように御自分に降って来るのを、御覧になった。すると、『あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者』という声が、天から聞こえた」と、出来事の経過を淡々と語る調子である。天からの声は、「あなたは」とあるので、イエスがその声を聞いたというように読むこともできる。
 マタイになると、3章13節で、「そのとき、イエスが、ガリラヤからヨルダン川のヨハネのところへ来られた。彼から洗礼を受けるためである」と、イエス自身の意志を強調する語りが加わる。ヨハネがそれを思いとどまらせようとすると、イエスは「今は、止めないでほしい」と言い、ヨハネはイエスの意志に従うことを強調する。15節後半「そこで、ヨハネはイエスの言われるとおりにした」とある通りである。そのあと「神の霊が鳩のように御自分の上に降って来る」(16節)のはイエスが見たことだとするところはマルコと共通している。そのあとの天からの声については、「これはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」となっており、イエスのことを周りの人々に示すようなことばになっている。
 ルカ福音書3章21−22節では、なぜか洗礼の場面で、ヨハネへの言及がない。「民衆が皆洗礼を受け、イエスも洗礼を受けて祈っておられると」と、民衆が受けていてそこで「イエスも」という流れで、それほどイエスの行動の独自性が強調されていない。そして、「聖霊が鳩のように目に見える姿でイエスの上に降って来た。すると『あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者』という声が、天から聞こえた」とあり、聖霊の降下は、イエスが見たこととしてだけでなく、周りの人に「聖霊がイエスの上に降って来た」ことが見えたように書いている。ただ、天からの声は「あなたは……」となっているので、イエスに向かって語られた声を周りの人も聞いたという文脈になっている。
 ヨハネ福音書では、イエスの洗礼は出来事としては語られない。1章29節以下、ヨハネがイエスについて「見よ、世の罪を取り除く神の小羊だ…」とあかしをすることばの中で間接的に語られるだけなのである。そこでは、「わたしは、“霊”が鳩のように天から降って、この方の上にとどまるのを見た」(ヨハネ1・32)と、ヨハネが“霊”の降下を見たという語り方になっている。そして、ここでは、「わたしの愛する子、わたしの心に適う者」という声は記されず、“霊”の降下を見たので、「この方こそ神の子であると証ししたのである」(ヨハネ1・34)という関連になっている。
 ざっと比べ読みしただけでも、福音書の中でもイエスの洗礼の出来事の位置づけ方は多様である。それぞれの福音書の観点の違いを調べる上で、イエスの洗礼は一つのよい窓口である。とはいえ、イエスが神の御子であることのあかしはすべてを通じて変わらない。信仰の核心である。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために
 
入信の秘跡とは洗礼・堅信・聖体の三つの秘跡で、わたしたちをキリスト者にしてくださる、キリストの一つの働きということができます。三つのシンボルそれぞれがキリストの救いの業を表しています。
国井健宏 著 『キリスト教入信―洗礼・堅信・聖体の秘跡』「洗礼・堅信・聖体―入信の秘跡〔入信の第三段階〕」 本文より



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