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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2019年1月27日  年間第3主日 C年 (緑)
この聖書の言葉は、今日、あなたがたが耳にしたとき、実現した (ルカ4・21より)

祝福する玉座のキリスト 挿絵  
ゴデスカルクの典礼用福音書 
パリ国立図書館 781 年頃

 カロリング朝を代表する典礼用福音書(朗読福音書)の挿絵。ゴデスカルクとは、カール大帝(シャルルマーニュ)から直々に制作を委任された写本画家である。荘厳のキリスト、玉座のキリストと呼ばれる型のキリスト像であるが、その顔は髭のない若者ないし女性的でもある。左手に書物(神のことばの象徴)、右手は、神の力を及ぼすしぐさ、祝福のしぐさといってもよい。イコンのキリスト像にも定型となっている姿勢である。奥行きは感じられないが、衣装も姿も顔も尊厳に満ちている。そして、頭の後ろの光輪が輝いているように見える。多くの写本画で(先週のもそうだが)光輪は決まりきった定型要素で、描き方がそれほど目を引くこともないのだが、この光輪は別格である。その中に浮かぶキリストの表情もいつまでも我々を見つめていそうである。両脇には、イエス・キリストを示す文字記号(IHS XP) が書かれている。これも大変力強い。神のことばを永遠に語りかける主キリストの姿、力強く描かれたその造形は、きょうの福音朗読箇所、「この聖書の言葉は、今日、あなたがたが耳にしたとき、実現した」(ルカ4・21)と大変よく響き合うように思われる。
 さて、この日の福音朗読からC年のメインであるルカ福音書が読まれていく。その最初に、その序文(1・1−4)が読まれ、イエスの宣教活動の最初の出来事の一つとして、とくに会堂礼拝で朗読の務めに立ったイエスが、預言者イザヤのことばを目に留めると巻物を巻き、席に戻った(4・17、20参照)。そして、「この聖書の言葉は、今日、あなたがたが耳にしたとき、実現した」と語られるのである。その言葉の前半は、「主の霊がわたしの上におられる。貧しい人に福音を告げ知らせるために、主がわたしに油を注がれたからである」(ルカ4・18前半)とイザヤ61章1〜2節にちなむ。しかし、預言書の引用というだけでなく、イエス自身が「メシア」(油注がれた者)、すなわち救い主であり、神の国の訪れをよい知らせとして告げ知らせる方であるという、証しの言葉そのものとなっている。とくに、「貧しい人にもたらされた喜びの知らせ」という点は、ルカがイエスの宣教の叙述を通して光を当てていくところなので、この福音書の観点の提示という面も持っているようである。
 ルカは、イエスの宣教が、旧約以来の伝統、ユダヤ教の宗教生活との連続の中から現れてくる様相を丹念に記していく。イエスは当初「諸会堂で教え、皆から尊敬を受けられ」(ルカ4・15)と記されるように、会堂での教師として姿を現している。それが旧約の律法も預言も超える方だという点をあかししていき、その中で異邦人すべてに対して、またとくに弱い人、そして女性たちに対してもいつくしみをもって現れる救い主としての姿がスムーズに理解できる語り方をしていくのである。それは、洗礼者ヨハネの誕生から語り始めるルカの歴史観のなせるわざでもある。使徒言行録を記すことも、その延長にある。
 神の救いの計画と、地上の歴史との交わりの中にイエスの生涯があり、ユダヤ人の会堂からギリシア人、ローマ人の世界へと福音宣教が広がっていく、その過程を予期しつつ、福音書のきょうの箇所では、その使命を果たし始める場面が語られている。「主がわたしを遣わされたのは、捕らわれている人に解放を、目の見えない人に視力の回復を告げ、圧迫されている人を自由にし、主の恵みの年を告げるためである」(ルカ4・18ー19)。ここであげられている人の状況は、ユダヤ人の状況をたとえる表現ともいわれるが、同時に文字通り、普遍的に困難な状況にある人々を表現しているともいえる。現代の世界でも、そのような状況が存在し、ある意味でもっと深刻化し、多様化している。福音書のメッセージがとても生き生きとしたものと感じられるのもそのためであろう。そのメッセージの主としてのキリストの姿を、このような絵から深く黙想することができる。

  きょうの福音箇所をさらに深めるために 

ギリシャ語本文を読むとすぐ気づくことだが、イザヤ61章1節の”解放”もイザヤ58章6節の”自由”も同じギリシャ語アフェシスである。とすると、イザヤ58章6節が章節の流れを中断させてまで、そこに挿入された理由もわかってくる。
雨宮 慧 著 『主日の福音―C年』「年間第三主日」 本文より



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