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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2020年2月2日  主の奉献 (白)
「わたしはこの目であなたの救いを見た」(福音朗読主題句 ルカ2・30より)

幼子イエスの奉献   
ドゥッチオ 
イタリア シエナ大聖堂美術館  14世紀初め

 イタリア、シエナ派の代表的な画家ドゥッチオが、1308年から1311年までに制作したシエナの大聖堂(ドゥオーモ)の主祭壇画『マエスタ』の一場面である。この祭壇画は、正面大画面に聖母子図がある。その下には、主の生涯の初めにある7つの場面(受胎告知、降誕、三博士礼拝、神殿奉献、幼子虐殺、エジプトへの逃亡、神殿での議論)が描かれ、その間にイザヤ、エゼキエル、ソロモン、マラキ、エレミア、ホセアの図が挟まれている。イエスを神殿にささげるこの場面はその中央に置かれている。両脇はソロモン(神殿の建設者)とマラキの図である。ちょうど、主の奉献の日は、第1朗読でマラキが読まれることも興味深い。
 絵として構図のバランスのよさがまず印象深い。神殿をイメージさせる建物部分。そのアーチの下には幼子をシメオンに手渡すマリアの姿、マリアの後ろのヨセフ、シメオンの後ろのアンナと、4人の配置が安定感をもたらす。マリア、幼子イエス、シメオンの動きがくっきりと浮かび上がるような画面構成になっているところも工夫のあかしだろう。そして、なによりも幼子の描写が面白い。マリアは幼子をシメオンに手渡し、シメオンが腕に抱きかけているのだが、幼子はそこからのけぞり、マリアのほうに手を伸ばしている。シメオンを怖がっているような、そして、マリアから離れるのをいやがっているような、そのような姿勢である。このような描写は、実際の幼子に対する観察や想像から入ってきたものだろうが、ルカの叙述が自然にそのように導いてもいると思われる。
 きょうの福音朗読箇所ルカ2章22~40節(長い場合。短い場合は2・22~32)の流れも、産後の清めに関する律法の定めを守ったヨセフとマリアが律法に基づいて神殿にささげものを行う。ヨセフとマリアの忠実さが、この二人のまっすぐな立ち姿、そして控えめに頭を前に傾けている姿勢からも感じられる。そこで、シメオンという人に会う。老人と書かれているわけではないが、「主が遣わすメシアに会うまでは決して死なない、とのお告げを聖霊から受けていた」(26節)とあるところ、そして幼子を腕に抱いたときの言葉「この僕(しもべ)を安らかに去らせてくださいます」(29節)から自然に老人と考えられている。絵の描写は、白髪と白い髭の中に、救い主を待ち望んでいた信仰のあつい正しい人としてのシメオンの人生を表現している。その信仰と待望の人生は今、幼子を腕に抱いた瞬間に満たされる。ルカの叙述と合わせてみるとシメオンの万感の思いが伝わってくる。シメオンの後ろにいるアンナの描写も興味深い。神殿で神に仕える84歳のアンナが右手を上げて幼子を歓迎している。彼女が幼子のうちに救い主を見て「皆に幼子のことを話した」(ルカ2・38)という活発さについてのルカの言及を反映させたものと思われる。アンナが左手に抱えている開かれた巻物は、ここにいるすべての人が敬虔に従っている律法を象徴していよう。
 しかし、この幼子が示しているものは、律法をも超える新しい神との出会いである。この絵、とくにシメオンの姿を見つつ、ルカの叙述を読むとき、「イスラエルの慰められるのを待ち望み」(25)といわれていた人の口から画期的なことが証言されている。「わたしはこの目であなたの救いを見た」「これは万民のために整えてくださった救いで、異邦人を照らす啓示の光、あなたの民イスラエルの誉れです」(ルカ2・30-32)。イスラエルの民の待ち望んでいた救い主はまさしく万民の救い主、異邦人の救い主である。ここに福音書が告げるイエス・キリストの真実が、すでにこのエルサレムの神殿で、この律法に忠実な正しく信仰のあつい人によっても告げられているのである。この意味は、やがてイエスのエルサレムにおける受難と十字架を通して最終決定的に示されることになる。主の降誕から40日目に祝われる主の奉献は、主の受難と復活の神秘をまっすぐに指し示している。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

異邦人を照らす啓示の光
 まず「彼らの清めの期間が過ぎたとき」(同22)とある。この「彼ら」は、だれを意味しているのか。出産後の清めのことならマリアにのみ当てはまるので、「彼女の」ではないのか。しかし、最も信頼できる写本では「彼らの」とある。これはマリアとヨセフのことではなく、「ユダヤ人たち」一般のことでもない。
和田幹男 著『主日の聖書を読む――典礼暦に沿って【A年】』「主の奉献(2月2日)」本文より 


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