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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2020年5月3日  復活節第4主日  A年(白)  
わたしが来たのは、羊が命を受けるため、しかも豊かに受けるためである(ヨハネ10・10より)

良い羊飼い
石棺彫刻(部分)
ローマ コンセルヴァトーリ宮殿美術館 3世紀
 
 復活節第4主日は伝統的に「良い牧者の主日」「良い羊飼いの主日」と呼ばれており、現在もA・B・C年ともにヨハネ福音書10章から朗読箇所が選ばれている(A年=10章1-10節、B年=10章11-18節、C年=10章27-30節)。このことから全体を通して、自分の羊を呼び、導く羊飼いに対し、その声を聞き分け、従う羊たちという関係がこれらの箇所を通じて主題となっている。そこから、この日は世界召命祈願日ともされている。復活節の朗読の展開としては、新しく入信した人々とともにすべての信者が、神に導かれる民としての心のあり方を新たにするという位置づけにある。
 復活節第4主日のこの特徴にちなんで、毎年この日には、良い羊飼いとして描かれる古代キリスト教美術の作品を鑑賞している。実際、キリスト教美術の形成期において、良い羊飼いとしてのキリスト像はカタコンベの壁画や石棺彫刻に頻繁に登場する。後世に一般化したキリスト教像(長髪で髭を生やした威厳ある男性像)とは異なり、実際に当時のローマ社会にいた牧者の姿を映し出すかのような容姿・風貌の青年または壮年である。表紙作品は、ひげを生やしていない、青年像の牧者である。たくましい腕と脚、そして真上を見つめる目力の強さに頼もしい救い主のイメージが込められているといえるだろう。
 羊を肩に担ぐ羊飼いという主題は、キリスト教以前のギリシア・ローマ美術に由来するものだが、それがキリスト教においては、ヨハネ10章の教えを踏まえて、信者の魂を担い導く救い主の姿として昇華されていったと考えられる。そこには、死後の平安に対する庶民の待望心、信仰心が溶け込んでいるともいえるが、キリスト教美術とはしばしばそのようなもので、それによって、キリスト教の教えを人々の身近な生活感覚や心の中に浸透させていった。そのことによって、現代の我々にも、核となる福音のメッセージとともに、その時代を生きた人々の心の綾(あや)を垣間見させてくれるのである。
 さて、A年である今年の福音朗読箇所はヨハネ10章1-10節。ここでは、イエスはまだ自分のことを羊飼いとは言っていない。1-10節のテーマは「門」である。この門から羊飼いも入り、羊も入る。イエスは「わたしは羊の門である」(7節)、「わたしは門である」(9節)と繰り返す。羊飼いが入る門であり(2節)、その羊飼いの声を聞き分け、その「門」すなわち「わたし(イエス)を通って入る者は救われる」(9節)と言われている。この文脈に限るなら、「羊飼い」は御父である神自身であり、イエスは御父と人間が出会うために開かれる門である。
 このように、最初の10節で、イエス自身は、父である神に至る入口(門)であるという位置づけがクローズアップされているとするなら、キリスト教美術で描かれる良い羊飼いは、キリスト像であるとともに、父である神のイメージであるともいえる。一人の羊飼いの姿がキリスト像であり、同時に御父像であるなら、そのことを二重に映し出す姿は、まさしく神への“門”である。その足もとで、上を向いたり、下を向いたり、安心して群がる二匹の羊も、羊飼いの肩に背負われている小羊のような羊の姿も、キリストに導かれ、神とともに平和を享受している信者の魂を表現しているのだろう。
 もちろん「門」であることは、単に人々が通っていく物理的空間という意味ではない。羊たちを正しく羊飼いたちのところに導くために、声をかけ、呼びかける生きた門である。結局、この羊飼いの姿から感じられるのは、羊たちを呼び、連れ、知る羊飼い(神)と、そこに導くキリストの働きである。御父と御子の働きの調和の中に、すでに人間は深く導かれている。神が人とともにあり、人もまた神とともにいる。神の救いの計画にあるみ心と、人間の側からの救いへの待望や願いが、この彫刻の羊飼いの姿の中に重なり合っている。この青年牧者の眼差しの強さ自体が神的威厳を湛えている。きょうの福音のイエスの声の強さとも響き合う。
 

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

復活節第四主日
羊を導く牧者のたとえは旧約にもよく見られるが、中でも民数記27章16-17節のモーセの祈りが注目される。

雨宮 慧 著『主日の福音――A年』「復活節第四主日」本文より

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