2020年5月31日 聖霊降臨の主日 A年(赤) |
五旬祭の日が来て、一同が一つになって集まっていると…… (使徒言行録2・1より) 聖霊降臨 ミサ典礼書挿絵 スペイン セオ・デ・ウルヘル大聖堂 14世紀末 きょうの表紙絵はミサ典礼書の式文のある段落の冒頭に、その頭文字を装飾する形で、そこに関係する出来事が描かれるという形式の絵である。暖色(だいだい色)が基調となる温かな空間にマリアを中心に弟子たちが集い、その上に鳩の姿の聖霊が降臨している。背景の色と重なって判別しにくいかもしれないが、鳩の口から赤い線が使徒たちに放射されているのがわかる。これらによって、使徒言行録が語る、「突然、激しい風が吹いて来るような音が天から聞こえ、彼らが座っていた家中に響いた。そして、炎のような舌が分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった」(2 ・2-3)という出来事が表現されている。音響的なこと(激しい風のような音)と、視覚的なこと(炎のような舌)の両面から表現するのがここの叙述の面白いところだが、絵の場合はもちろん、視覚的イメージで扱う。そのため、使徒言行録2章の聖霊降臨の叙述には聖霊が鳩の姿で降りたという描写はないものの、イエスの洗礼に関する叙述(マルコ1・10;マタイ3・16;ルカ3・22)に由来する鳩をここで示すのが、絵画の場合は定番である。 このように、白い鳩と赤い線で表現される聖霊の姿とその現れがテーマであるはずの聖霊降臨図だが、14世紀の作品であるこの挿絵の最大の特徴は、マリアの姿の強調にある。両脇に描かれている使徒たちは聖霊を受けていることよりも、マリアに向かってひざまずき手を合わせて礼拝しているほどである。マリアの姿勢は衣に隠れて見えないがやはり玉座に座している。そこに特別な位置が示されるが、それでもマリアは手を合わせ、天から降る聖霊を敬虔に受けとめている。純粋で穏やかなその表情、質素な身なり、深い青色の衣に、聖母の奥ゆかしさと敬虔の象徴を見ることができる。 マリアが聖霊降臨のときに共同体の中にいたとして描かれる根拠は、使徒言行録の「彼ら(=使徒たち)は皆、婦人たちやイエスの母マリア、またイエスの兄弟たちと心を合わせて熱心に祈っていた」(1・14)という記述にある。しかし、このような記述の雰囲気を超えて、マリアがクローズアップされていくのは中世末期の信仰心の傾向である。それは、第2バチカン公会議の『教会憲章』が「マリアは、教会の卓越したまったく比類なき成員として、さらにその信仰と愛においては、教会の典型、もっとも輝かしい模範として敬われ、カトリック教会は聖霊に教えられて、マリアをもっとも愛すべき母として孝愛の心をもって敬慕する」(『教会憲章』53項)と述べるような意味合いがたしかに土台にある。その上で、ここに描かれている使徒たちの動作や姿勢を見ると、ある種のマリア信心が高まっていたことを感じさせる。 ただ、使徒たちの表情の描き分けが、この小さなスペースの絵でもしっかりとなされているところは、やはり心に留めておきたい。使徒言行録の叙述でも、聖霊は、一同を一つにするとともに、「炎のような舌が分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった」(2・3)と、一人一人の個性や人それぞれの故郷の言葉による宣教の始まり(6節)が語られている。そのような教会の一致は使徒たちの一致の中心にマリアがおり、それが使徒たちの働きの個性にもつながっていく(きょうの第2朗読箇所=1コリント12・3b.12-13参照)。そのような教会の中の霊性と信仰心のありようをこの絵に控えめに示している。内に向かって一致している使徒たちも受けた聖霊の促しによって、これから世界の果てまで宣教に出かけていく。この図は、そのために聖霊の息吹がみなぎる瞬間を描きとどめているともいえる。 聖霊降臨は、教会の誕生(この日の集会祈願参照)ともいわれる。そして、入信の秘跡を通して、聖霊に活かされる者となった信者たちは、ミサは、いつもそれぞれにとっての聖霊の派遣を思い起こさせ、一人一人に新たな力を与えて、派遣する。その中心にはキリストがいる。マリアが大きく描かれているこの絵においてもキリストはいる。マリアの中、その心の中にいつもキリストがいることを、この絵を通してでも味わっていきたい。 |