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コラム

コラム一覧へ 「平和を希求すること」――日本カトリック平和旬間(8月6日~15日) 

下川雅嗣(イエズス会司祭・上智大学総合グローバル学部総合グローバル学科教授)
 平和を希求することは、力・強さへの希求を捨てることではないかと思います。日本社会は、失われた三十年と言われるように停滞感が漂い、格差が拡大し、貧困層も増加しています。日本は、経済の弱体化とともに、国際社会での存在感も薄くなっています。その中で、人々は強い国家、強い指導者に魅力を感じているようです。日本社会の右傾化の流れは、力・強さへの希求の顕(あらわ)れのようにも思います。私たちは、この傾きと日々闘う必要があります。
 実はこの右傾化の流れは、日本だけでなく、全世界的な傾向です。利益を求める超国家企業が世界全体を自由に動き回るという経済のグローバル化が進展し、全世界的に格差が拡大し、貧困が固定化してきているからです。
 貧困と格差の拡大は社会不安を生みますが、これには二つの解決策があります。一つは、貧困と格差を生み出す構造を是正していくことで、もう一つは「力」で社会不安や暴動を潰す方法です。これは、物理的「力」によって治安を維持するだけでなく、精神的にも、人々に対して「国家の強さ」(愛国心)や「国家・公共の利益」(利益にならない人の排除)が大事だという社会の雰囲気を作り、「我慢しなさい」と抑え込むのです。すでに日本は、後者の流れに入っています。もちろん、歴史的に見れば後者は解決策になっておらず、行きつく先は戦争しかありません。
 「主の変容」は、これから十字架の死に向かうイエスが、十字架のつまずきに弟子たちが耐えられるように、十字架の死の先にある栄光を示すものです。私たちもイエスに従うように招かれていますが、これは力・強さへの希求を捨て、無力(ケノーシス)の先にある栄光に招かれているということです。私たちが、平和を実現するために、力を求めるのではなく、コンパッション(共感共苦)と連帯の心で、貧しい人々、小さな人々と共に歩み、そのような教会、社会を建設していけるよう祈りましょう。(『聖書と典礼』2023年8月6日)

『聖書と典礼』主の変容 (2023年8月6日)表紙絵解説

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