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コラム

コラム一覧へ 「平和への道と暴力の抑止――日本カトリック平和旬間」

サリ アガスティン(イエズス会司祭・上智学院理事長)
 世界各地で武力行使により命や人権が奪われている現状に心が痛みます。約二十年前、大学で「社会の平和」を研究テーマに選びました。「非暴力について」調べ始めたものの、いつしか、テーマは「武力紛争」になり、私の専門分野は暴動のメカニズムや武力紛争になっていました。研究を通して、「極端な単一的アイデンティティの強調やイデオロギーも人を殺す」ことができること、多種多様な価値観が入り乱れる現代世界では「ある人にとっての正義が、他の誰かにとっての正義とは限らない」こと、暴力は私たちの身近なものとして家庭内暴力やいじめ、ハラスメント、構造的暴力等あることを実感しています。また、物事を自分の浅薄な尺度で計り、安易に善悪を判断することの愚かさにも気づかされました。
 聖書は「何が原因で、あなた方の間に争いが起こるのか」、そして「あなた方自身の内なる欲望が、その原因ではないか」と問いかけます。初代教会でも人間同士の争いの原因に着目しています。「あなたがたは、欲しても得られず、人を殺します。また、熱望しても手に入れることができず、争ったり戦ったりします。得られないのは、願い求めないからで、願い求めても与えられないのは、自分の楽しみのために使おうと、間違った動機で願い求めるからです」(ヤコブ4・2􃿌 3)。
 「やられたら、やり返せ」などと単純な論理で武力行使に踏み切る悪魔の誘惑は絶えないので、暴力の抑止のための戦いをサボることはできません。敵は目に見える他者というより、自分自身の中に潜んでいます。その内なる悪魔を制御するためには、人間が内なる天使の業【わざ】の慈しみ、赦し、友愛、共感等をもって、「武力による解決」ではなく「平和に貢献できるように行動すること」が大切です。その実現は容易ではありませんが、教皇フランシスコは「教育は希望である」と語っています。
 教育研究に関わる者として、各カトリック教育機関が建学の理念(福音)を意識して、命の尊厳や平和のために働く志を持ったリーダーを育成することがミッションだと確信しています。
『聖書と典礼』年間第19主日B年(2024年8月11日) 表紙絵解説

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