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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2019年3月03日  年間第8主日 C年 (緑)
死よ、お前の勝利はどこにあるのか(一コリント15・55より)

十字架と鳩 
羊皮紙写本画   
エジプト カイロ コプト美術館 9-10 世紀

 ヨーロッパのキリスト教芸術とは趣の異なる作品。羊皮紙製の福音書写本の冒頭を飾るものと思われ、中央は、コプト(中世エジプト)芸術固有の組紐文十字架である。そこにキリストの体は見えなくとも、その現存は表現しようとしている。まず、横木の上の部分のIHC XPC。これはギリシア語のイエスース・クリストースのそれぞれ冒頭3文字である。そして、十字架の基底部を織りなす桃色と茶色の組み合わせ部分の上に浮き上がる白い十字架の縦横の文様が、ここでは、キリストの身体にあたると見てよい。
 注目すべきは、十字架を飾る木の葉模様。交差部から斜め四方に出ているものと、四つの端のそれぞれから出ているものがある。まさしく命の木。こうして、十字架は受難と死だけでなく、復活と新しい命の象徴として描かれている。キリストの死と復活、すなわち過越の神秘を体現する形象である。また、横木の下の部分、中央の縦の木の両側に鳩が描かれていて、葉をついばんでいる。向かって右側の鳩は、さらにぶどうの房を加えている。「わたしはまことのぶどうの木」(ヨハネ15・1-5)というイエスの説教を思い起こさせる、新しい命におけるつながりの象徴である。こうして、十字架とその周りに描かれている諸要素は、明らかに、新しい、永遠の命へと向かっている。
 鳩といえば、ノアの洪水のあと、くちばしにオリーブの葉をくわえて帰ってきて、洪水の終焉を告げ知らせたあの鳩を思い起こす(創世記8・10-11参照)。それは、人類の再生,再出発を示すものであり、遠くキリストの受難と復活の予型(前表)でもある。この出来事は、神との和解(平和)、人類同士の和解(平和)に向かうノアの契約をイメージさせるものとなり、今日、鳩が平和のシンボルとされることの一つのきっかけとなったという。イエスの洗礼のときには、聖霊のかたどりともなる鳩(マタイ3・16;マルコ1・10;ルカ3・22参照)。聖霊自身、神との交わりと一致、人間相互の交わりと一致の力であるとしたら、聖書的にみれば、鳩は、一致と平和と聖霊のシンボルということになる。十字架の脇に描かれる鳩は、そのことを実現した主イエス・キリストの現存を見事に表現しているといえるだろう。
 さて、きょうの福音朗読箇所は、ルカ6章39-45節。「自分の目から丸太を取り除け」(ルカ6・42)、「人の口は、心からあふれ出ることを語る」(45節)といった、弟子に告げるイエスの説教が中心である。画像で表現しにくいメッセージであるが、そこでヒントになるのはアレルヤ唱である。「あなたがたはいのちのことばを保って、ともしびのように世を照らしなさい」(フィリピ2・15-16参照)。キリストの弟子である我々には「いのちのことばが与えられている」という前提があってこそ「丸太」(自分の過ち)を取り除き、そのことばを心からあふれ出させていけるようになる。その意味で、きょうの聖書の箇所は、心からの信仰告白と福音宣教への呼びかけであることがわかってくる。
 「いのちのことば」は、究極的には、主の過越の神秘から来る。それは、入信の秘跡によって、キリスト者に分け与えられている。第2朗読で言及されるように、それは、「わたしたちの主イエス・キリストによってわたしたちに勝利を」(一コリント15・57)くださった神の恵みそのものである。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために  

四旬節 キリストの受難と復活にあずかる入信準備と回心の期間 「灰の水曜日」から四旬節が始まります。「聖木曜日・主の晩さんの夕べのミサ」の前まで続きます。四旬節の主日には「四旬節第一主日」から「四旬節第五主日」までの各主日と、聖週間の始まる第六主日である「受難の主日(枝の主日)」があります。

オリエンス宗教研究所 編『典礼奉仕への招き【第2版】――ミサ・集会祭儀での役割 』「Q&A」本文より



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