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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2019年8月4日  年間第18主日 C年 (緑)
上にあるものを求めよ。そこには、キリストがおられる (第2朗読主題句 コロサイ3・1より)

荘厳のキリスト  
『スタヴロットの聖書』挿絵 
ロンドン 大英博物館 11世紀末

 きょうの第2朗読で読まれるコロサイ書の「あなたがたは、キリストと共に復活させられたのですから、上にあるものを求めなさい。そこでは、キリストが神の右の座についておられます」(3・1)にちなんで、荘厳のキリスト、すなわち天の玉座にいるキリストを描く写本画が掲げられている。
 ベルギー、リエージュ州にあるスタヴロットに7世紀半ばに創建された修道院で作られた聖書写本の挿絵である。11世紀、12世紀のロマネスク美術の歴史に名を残す芸術作品で知られる。表紙絵は、その中の「荘厳のキリスト」 (マエスタス・ドミニ) を示す写本画である。
 この画題の作品は無数にあるが、この作品の特徴は、光背が一つのアーモンド型の形式ではなく、8の字型をしていることで、これによって、玉座を表現しているように見えることである。キリストの背の後ろの部分には、外側から青、緑、金色というように色彩の層で奥行きが示され、青が聖霊を思わせるとするなら、緑は永遠の生命、金色は神そのものを示していると考えられる。また、キリストの足元は小さな円形の図がある。これは世界を示している。父である神と「ともに生き、支配しておられる」(ミサの集会祈願の結びに含まれる句)、御子キリストの権能がここに表現されている。内部は3色になっていて、上が青、下の(向かって)右側が緑色、左側が茶色となっている。地球世界の海・空・陸を意味するものだろうか。いずれにしても、この世界を今や御父とともに支配するキリストの偉大さは、その姿とこの小さな円の対比を通してよく示されている。
 キリストを見てみよう。荘厳のキリスト像の定型要素として、神の権威と祝福の象徴となる右手のしぐさ、神のことばの象徴である巻物ないし本を抱える左手がある。この絵では、右手が、十字架を握っているところがユニークである。神の権威と祝福(ゆるし、愛、いつしくみなどを含む)が決定的に示される姿がその十字架の出来事であるとの信仰的理解がよりよく表現されているといえるだろう。
 前述したように足元の小さな円は世界の象徴だが、この絵の場合、さらに、世界は周りを四角く囲む文様、そして、四隅の四福音記者のシンボルによっても表現されている。四福音記者のしるしは、左上が人間(=マタイ)、右上で鷲(=ヨハネ)、右下が牛(=ルカ)、左下がライオン(=マルコ)である。興味深いのは、上のマタイ、ヨハネのしるしは巻物を、下のルカとマルコは、本の形をしたものを抱えている。この違いに何か意味があるのだろうか。神のことばを示す人間の書き物の歴史にも目が配られているということだろう。地上の生涯の後、復活して、天に昇り、神の右の座に着き、永遠に生きて全世界を支配しているキリストは、今も、神の民の礼拝と歩みを導いている。
 そう考えると、福音記者に囲まれている天上のキリストは、今、我々のミサの中におられるキリストの姿そのものということになる。来られた方、また来られる方である「あなたがたの命であるキリストが現れるとき、あなたがたも、キリストと共に栄光に包まれて現れるでしょう」(コロサイ3・4)という約束を受けて主の来臨を待ち望むことは、ミサを通じて貫かれている教会(=神の民)の根本姿勢である。
 「上にあるものに心を留め、地上のものに心を引かれないようにしなさい」(コロサイ3・2)という呼びかけはさらに、福音朗読箇所の「自分のために富を積んでも、神の前に豊かにならない者はこのとおりだ」(ルカ12・21)。すなわち「命を取り上げられる」というイエスのメッセージとも響き合っている。この教えは、ミサのもつ大切な側面を見いださせてくれる。すなわち、ミサは、日常生活を送るわれわれの心をたえず「上にあるもの」へと向けさせてくれる営みであり、その根拠は、われわれが入信の秘跡によって、すでに「キリストと共に復活させられた」ことにある(コロサイ3・1)。すでに「キリストと共に神の内に隠されている」(3・3)ことがわれわれの命がこの共同の礼拝を通して現される。それは、われわれにとって、キリストに結ばれていることの確かめであり、キリストの存在と神のいのちを外に向けてあかしすることでもある。荘厳のキリストは、ミサを通して、そしていつも今、神の民一人ひとりの心の中に座している。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

50 鷲
 鷲は『福音史家ヨハネ』のシンボルにもなっています。それは、ヨハネによる福音書の初めのみ言葉が神の玉座まで昇っている鷲のように見えるからです(P.35参照)。
 ヨーロッパの聖堂ではキリストとヨハネのシンボルとして、鷲の絵や彫刻がよく目につきます。大聖堂の朗読台も鷲をかたどっていて、ちょうど鷲の両翼の上に聖書広げて、そこから聖書を読む格好になっています。
 今日でも国の紋章に鷲が使われることがあります。アメリカ合衆国とかドイツ連邦共和国などがその例です。

ミシェル・クリスチャン 著『聖書のシンボル50』「50 鷲」本文より

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