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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2019年9月29日  年間第26主日 C年 (緑)
主が再び来られるときまで、掟を守りなさい(第2朗読主題句 一テモテ6・14より)

荘厳のキリスト  
ロシア・イコン モスクワ 
トレチャコーフ美術館 15世紀半ば

 表紙絵は、荘厳のキリスト、あるいは全能者であるキリストと呼ばれるキリスト像の伝統にあるイコンである。頭の光輪、玉座、聖書、権威と祝福を示す右手のしぐさなど、すべては定型要素である。その特徴は、玉座がとても大きく、キリストの全身を囲むような半円型の形をしていること、また単に座席という以上に建物を思わせるところが、このイコン固有である。全世界、全宇宙の主という性格が表されているのではないだろうか。朗読箇所との関連は、今週も第2朗読箇所にある。一テモテ書6章11-16節で、パウロは、神の御前で、キリストの御前でテモテに命じるものとして語る。その核心は「わたしたちの主イエス・キリストが再び来られるときまで、……この掟を守りなさい」(14節)にあり、その上で「神は、定められた時にキリストを現してくださいます」(15 節)と約束する。全体を通して、キリストの御前に今あることを意識しつつ、将来、再びキリストが来られること、現れることについて教えているという文脈になる。
 このようなメッセージには、あらゆる意味で荘厳のキリスト像がふさわしい。そこには、父である神の姿が映し出されていると考えられるからである。パウロがこの書でいみじくも語るように「神は、祝福に満ちた唯一の主権者、王の王、主の主、唯一の不死の存在、近寄り難い光の中に住まわれる方、だれ一人見たことがなく、見ることのできない方」(15-16節)である。その神が目に見える姿になったのがまさしくキリストである。神のあり様を人間がいくらかでも描くことができるようになったのは、キリストの恵みのおかげである。神が御子を世に遣わしたことによって、地上の人間はキリストを描くことで神を“描くこと”ができるようになった。ある意味で、具象的想像力と、造形芸術という人間の能力の中に、キリストが“受肉”したのである。
 これほど主の現存と再臨を意識させるイコンを念頭に置いて、福音朗読箇所であるルカ16章19-31節のたとえ話を見てみると、アブラハムの口に託されてイエス自身のことばが語られていることに気づく。この話ではまず、金持ちと貧しい人(ラザロ)の対比があり、その「貧しい人は死んで、天使たちによって宴席にいるアブラハムのすぐそばに連れて行かれた」(ルカ16・22)とある。この宴席とは、神の国の宴会のことで、ルカ13章28節では、「あなたがたは、アブラハム、イサク、ヤコブやすべての預言者たちが神の国に入っているのに、自分は外に投げ出されることになり、そこで泣きわめいて歯ぎしりする」とある。ここでの教えのモチーフと、16章の金持ちと貧しい人の対比はつながっている。アブラハムは神の国にいる人の筆頭としてあげられている。しかし、同時にきょうの話の中では、彼は神の国の宴会の主催者、つまり神あるいはキリストのいわば代役をしている。とするならば、このイコンの、荘厳のキリスト像から、アブラハムが金持ちに対して語っていることばを聞き取ることができるだろう。
 玉座のキリスト、荘厳のキリストのイコンは、すでに神の国を映し出している。それは、現在、信じる民、教会共同体とともにおられるキリストの姿でもあり、将来において待ち望まれるキリストを思い、見るものである。かつて地上世界を生き、今は神の右の座におり、やがて生者と死者を裁くために来られる主は、ミサの中に教会共同体とともにおり、その現存に満たされながら、我々は「主よ、あわれみたまえ」と叫び、賛美と嘆願を傾ける。栄光の賛歌で歌われる、「神なる主、天の王」といった賛美句の一つは、この一テモテ書の文言にある。そのようにして、ミサを通して、我々はキリストの御前にいることを自覚し、最後の時もキリストの招きに呼応できるようにと、日々、生きる姿勢を鍛えられる。そのような信仰の意識を絶えず喚起させくれるキリストの姿を、イコンを通して仰ぐことができる。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

年間第二十六主日
 金持ちと貧しいラザロの物語
 陰府を隔てる深い淵があるなら、せめて兄弟たちが今の自分のように苦しむことのないように、生前に神の望みを生きる道を教えてあげてほしいとの金持ちの懇願に答えるアブラハムは、回心とは「モーセと預言者に耳を傾け」(ルカ16・31)ることだと繰り返し言う。この言葉はファリサイ派の人々ばかりでなく、すべての人に向けられている。
和田幹男 著『主日の聖書を読む――典礼暦に沿って【C年】』「年間第二十六主日」本文より


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