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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2019年12月29日  聖家族 A年 (白)
起きて、子供とその母親を連れて、エジプトに逃げなさい(マタイ2・13より)

エジプトへの避難  
パルマの洗礼堂の浮き彫り 
ベネデット・アンテーラミ作 12世紀

 ベネデット・アンテーラミ(1150年頃~1230年頃)は、イタリア、ロンバルディア地方出身で、主にパルマで活躍した彫刻家、建築家である。1178年制作とされるパルマ大聖堂翼廊の「十字架降下」の浮き彫りがもっともよく知られるが、その大聖堂の洗礼堂に12世紀末に作られた浮彫装飾の一つが表紙作品である。
 きょうの福音朗読箇所はマタイ2章13-15、19-23節だが、その前半にあたる13-15節が物語る「エジプトへの避難」は、キリスト教美術でもよく描かれる重要な場面である。
 マタイの叙述では、天使がヨセフに夢で現れ、「起きて、子供とその母親を連れて、エジプトに逃げなさい」(13節)、ヨセフはその通りに行動する。登場人物は、ヨセフと母親(マリア)と子どもだけであるが、もちろん、絵画では、そこに聖母子が乗るろば、さらに『偽マタイ福音書』に基づいて従者の女性たちが加えられることがある。この作品では、先頭に、天使がおり、ろばの後ろに二人の女性が描かれている。浮彫でありながら、よく見ると細かな描写がなされていることがわかる。
 まず、天使の姿が力強い。行く先を示す左手、そして、高く伸びている二つの翼。この出来事が、「預言者を通して言われていたことが実現するためであった」(15 節)と言われる通り、まさしく神の計画であること、神の強い導きであることを表している。ヨセフは荷物を肩に担いで、まっすぐ天使に従っている。叙述の中でも、ヨセフは、天使のお告げになんらことばを発することもなく、黙々と従っている。そのことは、福音朗読箇所にたびたび出てくる「起きて」という句が示している。天使の告げる命令として「起きて……なさい」という言い方で2回(13節と19節)、それに従うヨセフの行動を語る「起きて」が2回(14節と20節)で全4回。ここで使われているエゲイロー(起きる)という動詞が神の命令とそれに聞き従う人間の関係を示すいわば象徴となっている。イエスも告げることばであり、やがて復活をも指す単語である。いろいろな関連性への黙想に導く単語である。いずれにしても、神の計らいとそれに対する従順を示す、ここの天使とヨセフの描写は心に訴えるものがある。
 マリアと幼子イエスは、顔が少し正面に向きながら、互いに見つめ合っている。母と子の姿勢の呼応を通してそこに流れる愛情が伝わってくる。この時代以降、さらに豊かに表現されるものである。二人の従者の女性が描かれていることによって、この隊列は見事に聖母と幼子を中心とした構図になっている。これらの人物群、全体として素朴な描写に見えるかもしれないが、静かな動きが感じられよう。マタイが物語るこのエピソードは、ベツレヘムで生まれたイエスがなぜガリラヤのナザレに落ち着いたのかという説明もありつつ、イエスの生涯に訪れる苦難の最初の出来事でもあり、最後の受難の予告でもある。朗読では略されるマタイ2章16-17節では、ヘロデがベツレヘムとその周辺に住む二歳以下の男児を皆殺しにしたというエピソードが語られる。この子たちのことを教会は「幼子殉教者」と呼び、降誕節中12月28日に記念する。
 イエス、マリア、ヨセフに関するこれらのエピソードは、初代教会のときから、神の民の姿として、また、実際に家族の模範として考えられてきたであろう。親しみをこめた聖家族への崇敬は美術にも表され、やがて、信心としても発展し、明確な形をとるのは、17世紀のフランスで、そこから北米フランス領(カナダ)、そして諸国に広まっていった。19世紀末には固有の祝日も生まれ、1920年からは全教会が祝うべき祝日となった。主の降誕後の主日(主日がない場合は12月30日)になったのは1969年からだが、それにより一年の終わりのほうで祝われることになったことも意味深いといえるだろう。一年の最後に、この質実な作品とともに、神の家族である全世界の教会を思い、自分の実際の家族や仲間や共同体を思う日としたい。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

 家族の問題、教会の問題、人類の問題と、いずれもあまりにも大きくて本質的な問題ですから、そう簡単に答えが見つかるはずもなく、手探りでけもの道をかき分けて行くような日々だったことは、事実です。ところが、泣いたり笑ったり転んだりしながらこの道を行くうちに、あるときふいに、とても見晴らしのいい広場に躍り出て、この三つの問題に共通するシンプルな答えを目の当たりにし、感動させられることになったのです。それは改めて語るまでもないような単純すぎる答えでしたが、今、現に未来が見えずに苦しんでいる人とこの素晴らしい眺めを共有することは、ひとつの使命であろうと考え、一冊の本にまとめてみることにしました。
その答えとは、「福音家族」です。「福音家族を作り、福音家族を生きることが、血縁家族を救い、教会家族を救い、人類家族を救う」ということです。

晴佐久昌英 著『福音家族』「はじめに」本文より



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