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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2020年2月9日  年間第5主日 A年 (緑)
あなたがたの光を人々の前に輝かしなさい (マタイ5・16より)

ゲロの十字架  
木彫 
ケルン大聖堂 970年代

 「ゲロの十字架」という通称で親しまれている木彫のキリスト磔刑像である。ゲロとはケルンの大司教(在職969-976) で聖人として崇敬される人である。この木彫は高さが187㎝とかなり大きい。十字架のイエス像の歴史の中でも重要な一段階を示すものとして知られる。
 その特徴は、十字架上のイエスの描き方にある。磔になっているイエスの姿は、今日の我々にとっては馴染み深いものであるが、キリスト教美術の歴史の中ではむしろこの中世初期に現れ、後に広まっていく様式であった。古代末期に造られた浮き彫りや中世初期の写本画、壁画などで描かれる十字架のキリストは、目を開け、生きている姿、すなわち、復活した主として描かれることが多かった。それが9~10世紀の経過の中で、まずビザンティン教会のイコンにおいて死んでいる姿のキリストが描かれるようになり、これが主流となっていく。この傾向は西方で進行していき、生きているキリストを描く図像と死んでいるキリストを描く図像が併存していく時代が続く。
 ゲロの十字架は、死んでいる姿を描くようになる最初の頃の作にあたる。その描き方には繊細かつ丁寧な造形が印象に残る。身体が少しずつ重みで下がっていく感じ、そして下を向き、イエスの顔も静かに瞑目しているようである。後には、身体のたわみも表情にも激しい悲痛感を覚えさせるものが多くなるが、このキリストの姿はどうだろう。我々を静かにイエスの十字架での死に対する黙想に深く誘っていくのではないだろうか。頭の背後にある光輪の輝きも、そしてその上の「INRI」(「ナザレのイエス、ユダヤ人の王」のラテン語の略号)という文字も力強い。この十字架のイエスは、まさしく神のひとり子、わたしたちの主であることをやはり力強く宣言している像である。
 さて、この作品を表紙に掲げたのは、きょうの第2朗読箇所、一コリント書2章1-5節にちなんでのことである。「なぜなら、わたしはあなたがたの間で、イエス・キリスト、それも十字架につけられたキリスト以外、何も知るまいと心に決めていたからです」。パウロの宣教精神がこの一言に凝縮されているといってよい。もちろん、それは、すべてのキリスト者にとってもそうであろう。
 きょうの福音朗読箇所はマタイ5章13-16節。有名な「あなたがたは地の塩」(13節)、「あなたがたは世の光」(14節)と語る、ここはすべてがイエスのことばである。これも一つのたとえを用いての教えであり、それ自体、よく読んでもよくわからないところがある。末尾(16節)のことばがヒントになる。「あなたがたの光を人々の前に輝かしなさい。人々が、あなたがたの立派な行いを見て、あなたがたの天の父をあがめるようになるためである」。イエスに従う人々の生き方に対して大きな呼びかけをしている。信者たちが輝かす「光」、そして「立派な行い」が、人々を天の父への礼拝へと招くようになっていく……そのような信者のあり方が「地の塩」「世の光」といわれているところになる。
 このような意味を照らし出してくれるのが第1朗読箇所であるイザヤ書58章7-10節である。神に従う人に輝く「あなたの光」が言及され(8節、10節)、それは「あなたの正義」(8節)とも呼ばれる。その具体的なこととして「飢えた人にあなたのパンを裂き与え、さまよう貧しい人を家に招き入れ、裸の人に会えば衣を着せかけ、同胞に助けを惜しまないこと」(7節)と実に具体的に語られる。まさしくイエスの教え(マタイ25・31-46)とも重なる、隣人愛の呼びかけであることがわかる。
 このように語られ、信仰者に与えられている、「世の光である」といわれるところの「光」は、イエスの十字架での死と復活を通して我々に注がれている光にほかならない。福音朗読と旧約朗読がつながって示すこの日の主題や中心イメージを、使徒書は根源にあるキリストの神秘から照らし出している。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

 声なき貧しい人々に代わって
一九七五年六月二十一日深夜、教区内のトレス・カレスという町で、六人の農民が殺害される事件が発生します。
…翌朝現場に駆けつけたロメロ司教は遺族を慰めた後に、目撃者から聞き取りをし、国軍の司令官に抗議に赴きます。
しかし、司令官は「良くない種を取り去っただけだ」と取り合わなかったことから、今度は報告書を作成し、
大統領に宛てて抗議文を送付。その抗議文にロメロ司教ははっきりと、自分は「声なき貧しい人々に代わって」
声を上げているのだと記しました。この事件を契機として、ロメロ司教に少しずつ変化が現れます。

菊地 功 著 『「真の喜び」に出会った人々』「9 みことばが実現可能であると証明した人」本文より

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