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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2020年4月5日  受難の主日 A年 (赤)  
「主の名によって来られる方に、祝福があるように」(マタイ21・9より)

エルサレム入城   
ロシア・イコン 
トレチャコーフ美術館  16世紀
 
 ビザンティン典礼においても、枝の主日は主の生涯の主な出来事を祝う十二大祭の一つ「聖枝祭」として大切にされ、入城のイコンはその関連で多く描かれている。
 エルサレム入城の図は、磔刑図と異なって、キリスト教美術の初期(例えば、4世紀ローマの石棺彫刻においてなど)から、また東方・西方を通じても基本構図は共通である。若干の違いは、例えば、西方ではザアカイの回心の話(ルカ19・1-10)が加わり、木の上に若者が登っているところを描くものがあるのに対し、東方では、このイコンのように子ども(たち)が木に登っているように描かれる。また西方ではキリストがろばの背にまたがる姿で描かれるのに対して、東方では横座りになっていて、後ろの使徒たちのほうを振り向いているように描かれる。
 さらに後期のイコンでは、表紙作品のように、イエスの背景の(向かって)左側に岩山を描き、右側の都市の情景と対照させているものが見られる。このような岩山は、イコンの場合、イエスの誕生の場所として描かれるものであり、左側は、神の子の誕生からの歩みが凝縮されていると考えることができる。もちろん、イエスの誕生自体が神の子の人間世界への到来であったのだが、今や、エルサレムという旧来の信仰世界の象徴でもある都に入っていく。そして、神の子の受肉という出来事がさらにその濃密な局面に入っていく。
 イエスに従う使徒たち、迎える町の人々との左右のバランス、敷物を敷く、かなり小さく描かれた若者と、木の上の中の白い衣の子どもという上下のバランス、そして両方の世界をつなぐかのように長い体で描かれているろばの配置など、全体として安定した構図は、鑑賞者の心をとらえ、礼拝へと招くかのようである。
 さて、イエスのエルサレム入城は、旧約聖書と福音書、そして典礼(受難の主日の聖書朗読およびミサそのもの)との対応関係がさまざまに重なり味わい深い。そのことをイコンとともに味わっていこう。
 まず受難の主日(枝の主日)の最初に行われる枝の祝福と行列は、イエスのエルサレム入城の出来事にちなむものである。朗読される福音箇所は、A年では、マタイ21章1-11節、B年ではマルコ11章1-10節(またはヨハネ12・12-16)、C年ではルカ19章28-40節という並行箇所で基本的に内容は同じである。
 ろばについてはゼカリヤの預言(ゼカリヤ9・9)が背景にある。「見よ、あなたの王が来る。彼は神に従い、勝利を与えられた者。高ぶることなく、ろばに乗って来る」。救い主の到来を予告する預言であり、このことがイエスにおいて実現したことを証言するのがエルサレム入城の福音の意図である。また、「主の名によって来られる方に、祝福があるように」は詩編118編26節「祝福あれ、主の御名によって来る人に。わたしたちは主の家からあなたたちを祝福する」を踏まえつつ、今や、イエスが主であることを証明し賛美する文言となっている。これらを通じて、エルサレム入城が受難の始まりでありつつ、実はイエスが神の子である救い主、主であることがあかしされる出来事であるということがここに示されている。入城は神の子の決定的な啓示の序幕である。
 賛美をもってイエスを迎える群衆の叫び「ダビデの子にホサナ。主の名によって来られる方に、祝福があるように。いと高きところにホサナ」(マタイ21・9)は、いうまでもなくミサの感謝の賛歌を構成する文言である。感謝の賛歌は、いわばエルサレム入城すなわち受難の始まりにあたっての神の子イエスへの賛美を繰り返しているといえるかもしれない。感謝の賛歌から奉献文への流れは、エルサレム入城から主の死と復活への歩みを毎回記念する祈りであるともいえる。ミサの祈りの核心的な内容が、受難の主日から復活の主日への展開の中で、さらに聖なる過越の三日間の典礼を通してこまやかに展開されていくことを考え、味わうことで、いつものミサにも深く向かっていけるだろう。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

初めに存在ありき
 実存の彼岸それは「何もない世界」のことではない。しかし「何かがある」と言うことのできない、すなわち「何かが」という主語が「ある」という述語に呑みこまれてしまう世界のことである。「われはあるものなり」というモーセに明かされた神の名の神秘は、この表現を超えた世界、実存の彼岸を指しているのである(出エジプト記3・14)。

奥村一郎 著『奥村一郎選集――第6巻 永遠のいのち』「第十五章 実存の彼岸」本文より

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