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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2020年12月20日  待降節第4主日  B年(紫)  
あなたは身ごもって男の子を産む (福音朗読主題句 ルカ1・31より)

お告げ     
詩編書挿絵   
ウィーン国立図書館 13世紀後半

「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる」(ルカ1・28 新共同訳)。「アヴェ・マリアの祈り」として親しまれている「アヴェ・マリア 恵みに満ちた方。主はあなたとともにおられます」のもとである。きょうの福音朗読箇所であるルカ1章26-38は、天使ガブリエルがマリアに神の子イエスの誕生を予告する場面。美術においては「受胎告知」と呼ばれる出来事であり、数々の名画が作られてきた。
 表紙絵は、13世紀後半の詩編書の挿絵だが、聖書写本画が大きく発展した9~10世紀にもイエスの生涯の始まりにおける重要な場面として必ず描かれる。さらに11世紀以降のマリア崇敬の高まりとともに大きく展開し、ルネサンスの巨匠たちの「受胎告知」図にも至る。
 13世紀の作例として、表紙絵を見ると、簡潔に、この出来事の核心となる天使ガブリエルとマリアの出会いに集中している。二人が立つ地面は岩山の上のように描かれているが、そこに意味があるとしたら、まさしくこの出会いが天と地の境界で起こっているという見方があるのだろう。たしかにガブリエルは、生まれる男の子は「いと高き方の子」(ルカ1・32)と呼ばれるとし、マリアには聖霊が降り、いと高き方の力に包まれる(1・35参照)と予告されるのである。マリアの立っているところはすでに神の次元である。背景の金色が神の栄光とその恵みの充満を十二分に感じさせる。まさしく恵みに満ちた方マリアである。
 ガブリエルが左手から広げる巻物の文字は「アヴェ・マリア グラツィア・プレナ」(「アヴェ・マリア 恵みに満ちた方」)。ちなみにこの「アヴェ・マリアの祈り」の祈りは11世紀に成立したものである。13世紀にはこの祈りを伴う「御告げの祈り」が形成され、広まりつつある。
 ガブリエルの左足・右足の描き方も、歩んでいる格好であり、まさしく「天使は、彼女のところに来て言った」(ルカ1・28)にあたる。真っ直ぐにマリアを見つめる天使の目の高さとマリアの目の高さが等しい。マリアは、両手を挙げて、天使の告げ知らせをしっかりと受けとめている。その表情は真摯で透明感が満ちている。このエピソードの最後のマリアのことば「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」(1・38)を体現しているといえよう。つまり、この絵には、このエピソードの全体が含蓄されている。
 さて、このように見てくると、この場面はマリアが主人公であるように感じられてこよう。しかし、本当の主人公はこれからマリアがみごもり、産むことになる男の子、すなわちイエスであることを考えなくてはならない。絵では表現されていないことが真のテーマであるということも、聖書画の場合はしばしばある。ガブリエルのことばは、生まれてくるイエスという名の子は「父ダビデの王座」(ルカ1・32)が神から与えられる方であり、「永遠のヤコブの家を治め、その支配は終わることがない」(同1・33)とされる方、「聖なる者、神の子と呼ばれる」(同1・35)方である。
 このダビデの王座を与えられる方という意味合いを、きょうの第1朗読(サムエル記下7・1-5、8b-12、14a 、16)はダビデ自身に関する歴史叙述から示している。「あなたの家、あなたの王国は、あなたの行く手にとこしえに続き、あなたの王座はとこしえに堅く据えられる」(同7・16)と預言者ナタンを通して主が約束するところである。答唱詩編(詩編89・21+22、25+27、29+35)もダビデへの契約の永遠性をつげる主のことばで構成され、「神のいつくしみをとこしえに歌い。主のまことを代々に告げよう」と賛美する。第2朗読(ローマ16・25-27)は、すべての人のあがないのための、神の「秘められた計画」(ローマ16・25)を深く思い起こさせ、キリストによって「その計画は今や現されて、……すべての異邦人に知られるように」(同26節)なったことを説いている。そのような救いの歴史を思い起こしつつ、きょうの福音朗読を聴くと、天使ガブリエルのマリアのもとへの派遣を通して、神の計画がいよいよ実現に近づくという、緊迫感と喜びの高まりがひたひたと伝わってこよう。
 ちなみに、このルカ福音書1章26-38節は3月25日の「神のお告げ」の日に読まれ、まさしくこの出来事が祝われる。典礼暦の長い伝統では「マリアへのお告げ」と呼ばれ、マリアに関する祝祭日と理解されてきたが、典礼刷新によって、現在は「神のお告げ」(直訳「主のお告げ」)とされるようになった。天使を通して示された神からのお告げとも読めるし、主イエスについてのお告げとも読める、含蓄のある呼称であろう。いずれにしても、この出来事において神と神の子イエスが根本主題であることを心に留めつつ、天使とマリアの姿を見つめていくことが大切である。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

教会のもう一つの側面
マリアとエリサベトは年齢、体験、歴史の違う二人でした。しかし、神からのいのちを宿しているという共通の内的現実を抱えている者同士として互いを照らし合っていきます。互いが自分の中に宿した神秘の躍動を感じながら、そのいのちの神秘の理解を深め合っていきます。これは私たちキリスト者共同体の持つ本質的な意味なのだと思います。

中川博道 著『存在の根を探して──イエスとともに』「14 呼び集められた人々(2)」本文より

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