2022年3月13日 四旬節第2主日 C年 (紫) |
「これはわたしの子、選ばれた者。これに聞け」 (ルカ9・35より) 主の変容 イコン ドイツ レックリングハウゼン・イコン美術館 1600年頃 四旬節第2主日の福音朗読箇所が毎年、主の変容の箇所であることはもうよく知られているだろう。今年はC年なのでルカ福音書9章28節b -36節である。四旬節第2主日にこの箇所が読まれるのには、いくつもの理由がある。 まず、この出来事はマタイ、マルコ、ルカの3福音書のどれにおいても、最初の受難予告に続く位置に置かれている。すなわち、ことばによる受難予告が、今度はイエスの姿が変わるという出来事によってなされるともいえる。姿の変容は受難から復活への移りゆくイエスの存在の変化を先取りして示すからである。これは、四旬節全体がイエスの死と復活の神秘、過越の神秘に向かっていくこととも対応して、先週の四旬節第1主日と並んで、第2主日も、四旬節における信者の使命(回心と信従)を示す役割を果たしている。 このイコンは、主の変容に関する定型におおむね従っている。中央の岩山の上に光背に包まれた白い衣のキリストが立つ。光背の描き方は、イコンごとに多様だが、ここでは、四角形が鋭角的に切られたマントのようなものがイエスの背を守り、かなたからの強い光を受けている感じになっている。変容が紛れもなく神からのものであることを示す。両側にいるのはモーセとエリヤ。(向かって)右側で左手に律法の書を抱えているのがモーセ、左側の髪もひげも長い老人がエリヤであるというのが定番の解釈である。 福音書の叙述が言及する3人の弟子ペトロ、ヨハネ、ヤコブは、イエスとともに、このイコンでは3度描かれていく。まず、真下、まさしく変容の出来事に畏れおののいている様子である。また、岩山の中腹の両側には、この山に昇るイエスと3人と、同じく降りてくるイエスと3人が描かれている。いずれにしても、このようにして、弟子たちの絵とともに、我々自身もこの出来事の中に引き込まれていく。 モーセとエリヤの登場が、この出来事の歴史的奥行きを暗示させるものとなっている。旧約の神の民、シナイ契約に導かれるイスラエルの民の指導者モーセの姿は、イエス・キリストこそ、新しい神の民の導き手、主であることを示す存在として、イエスに向かって謙遜に礼拝する姿勢で示される。エリヤは預言者の象徴として、その再来が待ち望まれ、ある意味で救い主の予兆として望まれていた存在である。両者ともに、イエスの前で少し身をかがめ、両手を差し出して、イエスに対して請願をしている。格好としては、十字架のイエスに対して、マリアと洗礼者ヨハネが両側からイエスに民の祈りを取り次ぎ、救いを願う「デイシス」の構図にも似ている。 しかも、モーセもエリヤも、四旬節の理念の源泉となっている「40」という数字にも関係する。イエスの悪魔の誘惑にあう40日と象徴的に関係している。モーセは、荒れ野の試練のあとイスラエルの民に再び十戒が授けられる前に、ホレブの山に上り、契約の板を受け取る前に「40日40夜、山にとどまり、パンも食べず水も飲まなかった」(申命記9・9)。主の現存の前に回心をもって臨むための苦行は、エリヤもやはりしている。ホレブで主に合う前に、御使いに助けられながら、40日40夜歩き続けてようやく主のみ前に臨むのである(列王記上19・8前後参照)。その出来事のとき、モーセもエリヤも主に出会えてはいるが、旧約-新約の展望からすると、その出来事さえも新約における救い主の登場のための一つの予告だったということになる。いま、この変容の中で、イエス・キリストの変容の姿において、モ-セとエリヤの目的は、今や完全に満たされつつあると言い得るかもしれない。今こそ彼らはまことの主に出会えているのである。 このように、変容という一瞬の出来事のうちに、歴史が凝縮されていることがわかる。それによって予告されるイエスの受難と死の出来事に向けて、この出来事では、祈りとことばの大切さも浮かび上がってくる。まずイエスは「祈るために」(ルカ9・28b)山に入り、イエスが「祈っておられるうちに」(同29節)起こった出来事である。そして、御父のことばが決定的である。「これはわたしの子、選ばれたもの、これに聞け」(同35節)。 すべてはイエスの御父への祈りのときに起こったことであるので、それは、イエスと御父との対話の中で起こったことであり、そこから今度は、弟子たち、ひいては現代の我々に対しての呼びかけがなされる。 この御父のメッセージを、きょうも新たに受けることが、四旬節のメッセージを代弁している。イエスの十字架での死を経験した弟子(使徒)たちは、復活の出来事のうちに、はっきり、このイエスに従うようにという呼びかけを真に悟ったに違いない。それは、この日のミサを通じて、我々自身にとっての呼びかけともなっている。 |