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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年1月1日 神の母 (白)  
マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた(ルカ2・19より)

聖母子
イコン
ドイツ レックリングハウゼン・イコン美術館 16世紀

 マリアの姿がつつましい。少し右を向き、頭も少し前に傾けている。すべては、両手で抱く幼子イエスに向かっている。幼子といったが、イエスは、すでに小さな王のような威厳を備えている。左手には巻物、右手は祝福のいぐさをしているところは、大人のキリストのイコンの基本姿勢と同じである。その玉座がすなわちマリアである、というところに深い味わいがある。マリアを通して、神の御子は、まことの人となり、人類の救い主として現れているといえる。マリアに抱かれつつも、その身は、前面に出ている。主としての役割を発揮しようとしている姿に感じられる。幼子の額が異様に広く、大きく、輝いている。神の知恵を宿す方、まさしく御子の特徴を示すものなのだろう。マリアの姿、表情のつつましさ、小さい姿の中でも主としての尊厳を輝かせている幼子、この両者が一体となっている姿は、我々の黙想を呼び起こしてならない。
 さて、きょうの「神の母聖マリアの祭日」の意味に目を向けてみよう。1月1日は、ローマ教会で伝統的にマリアを記念する祝祭日であるが、その出発点は1月1日が12月25日の主の降誕から8日目であるというところにある。元来、キリスト教の週と主日の考え方では、主日から主日までの8日間というとらえ方が重要になっている。地上の生活は、初めでもあり終わりでもあるキリストのうちに営まれるという考え方である。ここからさまざまな祭日に関して、その前後の8日間は特別な彩りを添えられることにもなる。1月1日は主の降誕から8日目という意味合いでその祝いの意味をマリアのための祭日として重ねて味わう日となっている。
 この日の福音朗読箇所ルカ2章16-21節においては、降誕の夜の出来事の続き、すなわち、羊飼いたちが救い主の誕生を告げ知らせ、神を賛美していく様子があたかも降誕の感動の余韻のように語られた後、誕生から8日たって割礼を受け、幼子が「イエス」と名付けられたことが語られる。「あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい」(ルカ1・31)というお告げの中で約束されていた、「神は救う」を意味する「イエス」という名が幼子に付けられたということは、神の御子である救い主としてのイエスの地上での歩みが本格的に始まることを意味している。
 しかも、「幼子はイエスと名付けられた。これは、胎内に宿る前に天使から示された名である」(ルカ2・21)と語られる中で、マリアの名は一つも言及されていない。この受動表現の中で「名付けなさい」と言われ、名付けたはずのマリアの動きは隠されている。また、この受動表現は、神の計画のとおり実現したというニュアンスをも持っている。マリアは自らの役割をしっかりと果たしつつも、ここで表に出てくるわけではない。神の計画どおり、そして、マリア自身が「お言葉どおり、この身に成りますように」(ルカ1・38)と答えたとおり、神の意志に従って「イエス」と名付けたのである。このように、神の計画の地上における実現において、マリアの存在が秘められていることが重要であり、教会は、そこをしっかりと見つめ、明確な言葉ではわずかしか言及されていないマリアの姿を深く追想し、厚く崇敬し続けている。
 きょうの福音朗読箇所の中でも、マリアについて直接言及されるのはただ一文「マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた」(ルカ2・19)だけである。しかし、この「思い巡らし」の意味は限りなく深い。キリスト者にとって、信仰の中で救いの神秘、キリストの神秘に深く心を向ける瞑想や黙想の起源がここにあるといってもよいほどである。イエスの生涯へのマリアの同伴は、今後も明示的に言及されなくても、ずっと続いていたものと想像することができる。その極みは、いうまでもなくヨハネ福音書が意味深く語る、イエスの十字架上での死のときのマリアの同伴である(ヨハネ19・25-27)。
 このマリアの同伴が救いの歴史の中で意味する一つの側面は、神の人類に対する「祝福」である。受胎告知の場面での天使ガブリエルの最初のことばは「おめでとう。恵まれた方。主があなたと共におられる」(ルカ1・28)であった。十字架のイエスがマリアと使徒ヨハネに向けて、それぞれ「母」と「子」と呼び、ここに教会を、ひいては新しい人類家族の誕生を示す。そして、この聖母子像は「今から後、いつの世の人もわたしを幸いな者と呼ぶでしょう」(同1・48)ということばのとおりのマリアを示している。
 このように、マリアの姿に神の人類への祝福とより高い使命への招きが込められていることを、きょうの第一朗読箇所=民数記6章22-27節は示している。イスラエルの民への祝福のことば、神の祝福と照らし、恵みと平安を約束するそのことばは、イエスとマリアを通して、今やすべての人に向けられ、一人ひとりを神の民となるよう招いている。救いの歴史の実りとして告げられる祝福のメッセージとともに、教会は、全世界にこの喜びを運ぶ使命を新たに受けるのである。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(A年)●典礼暦に沿って』「神の母聖マリア」

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