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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年1月29日 年間第4主日 A年 (緑)  
心の貧しい人々は幸いである、天の国はその人たちのものである(マタイ5・3より)

山上の説教
オットー3世朗読福音書写本画
ドイツ バイエルン州立図書館 1000年頃
 
 きょうの福音朗読箇所マタイ5章1-12a節は、有名な山上の説教、八つの「幸い」についての教えがある。この教えのことを「真福八端」(しんぷくはったん)という四字熟語で表現することが多い(真の幸福の八つの端緒という意味だろう)。この漢字熟語は、イエズス会の中国宣教の中で作られた漢語のキリスト教書で生まれた呼び方のようで、18世紀には日本にも知られ、明治のカトリック宣教の中で広まったもののようである(『新カトリック大事典』の項目『七克』(しちこく)、および『日本キリスト教歴史大事典』の項目「真福八端」などを参照)。マタイによるこの教えは、一般にもよく知られており、「心の貧しい人は、幸いである」、かつての文語訳での「幸いなるかな、心の貧しい人」は、もっともよく知られた福音の教えではないか、と思われる。
 「幸いである」と語る教えは、ルカ6章20-26節にもあるが、そこでは、その前にイエスが、山に登って弟子たちを呼び寄せ、その中から十二人を選んだあと、彼らと一緒に山から降りてきて、平らな所で多くの人々が来ている中、弟子たちに語った教えとなっている(ルカ6・12-19参照)。しかも教えは、四つの幸いと四つの不幸についてである。
 表紙絵の中世の朗読福音書写本挿絵は、不思議な描き方をしてしいる。多くの人々もいるだろう、この教えの背景場面を、下の段に描き、直接に弟子たちに語っている光景は、上の段に描く。下の人々がイエスを見上げているという意味では、イエスは山上にいるようであるが、この山上のことを、一つの玉座で表現しているようである。弟子たちに対しては、同じ地面にいるので、平らな所で語ったというルカの記述にも通じる見ることができる。つまり、この描き方のうちには、マタイとルカの両方の文脈を想定することがゆるされるようでもある。
 イエスは、既に主としての尊厳を示す深紅の衣を来て玉座に座し、両側にいる使徒たちに教えを告げているようでもあり、祝福をしているようでもある。「幸いである」の教えの具体化をここに感じてもよいだろう。両側の使徒たちの、イエスを食い入るように見つめる眼差しが印象深い。
 そのまなざしを今度は下から見上げ、仰ぐようにイエスに向けているのは、人々である。両側の手前は身分の高い夫妻らしい趣が服の描き方から感じられる。それでもこれら全体(8人)で多様な人々を描き出しているのだろう。肩を抱いたり、手を握りあったり、かなり細かな描写が含まれていて、それぞれの関係性の多様性さえ想像させる。それは翻って、現代の人々、人類、人種、民族、世代、性別の多様性についても思いを馳せさせるものだろう。その中で、マタイ5章3節の「心の貧しい人々」、「悲しむ人々」(4節)、「柔和な人々」(5節)、「義に飢え渇く人々」(6節)、「憐れみ深い人々」(7節)、「心の清い人々」(8節)、「平和を実現する人々」(9節)、「義のために迫害される人々」(10節)に、目を配る神のまなざしにも心を向けざるを得ない。これらの人々のありようを語るだけでも、この教えには賛嘆させられるだろう。
 しかし、イエスが教えるこの幸いは、神の国、神のもとで生きる喜びそのものであろうが、これは、旧約における神についての教えと、神の民の信仰に深く根ざしているものであることが、きょうの第一朗読箇所ゼファニヤ書2章3節、3章12-13節からも感じ取ることができる。主である神は、苦しみに耐えてきた民に対する守り、救い、養い、憩いを約束する。この箇所の中で、「苦しみに耐えてきた民」とは、上述の山上の説教における、貧しい人々、柔和な人々の意味を含むという。答唱詩編で歌われる詩編146(1-2,6-10から構成)も、貧しい人のために裁きを行う神への賛美を語り、そこで、「飢えかわく人」「捕らわれびと」、「見えない人」「身寄りのない子どもとやもめ」などに対する神の救いの訪れを思い、神を賛美している。
 第二朗読箇所の一コリント書1章26-31節でも、神が「世の無学な者」(27節)、「世の無に等しい者、身分の卑しい者や見下げられている者」(28節)を選んだことを思い起こさせ、このような人をはじめ、すべての人がキリストに結ばれることを目指すのが福音宣教の核心であると、力強く語られている。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(A年)●典礼暦に沿って』「年間第四主日」

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