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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年2月19日 年間第7主日 A年 (緑)  
敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい。(マタイ5・44)

茨の冠を受けるキリスト 
ステンドグラス
パリ サント・シャペル教会  13世紀
 
  主日の朗読A年は、年間第4主日から第7主日までをもってマタイ福音書の5章全体を読む。7章まで続く山上の説教のうち、きょうの福音朗読箇所は5章38-48節の「敵を愛しなさい」の教えの箇所(並行箇所ルカ6・27-28、32-36はC年の年間第7主日の福音朗読箇所)で、「隣人を愛しなさい」という教えの徹底として「敵をも愛しなさい」という教えが語られる。このことを強調するために、レビ記19章18節(「自分自身を愛するように隣人を愛しなさい」)に言及するところでは、元々そこにない「敵を憎め」という文言が加えられている。これによって律法以上の教えを告げるというイエスの姿勢が強調されている。そして、「敵をも愛する」ことを例で語るのが、その前にある「だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい」(マタイ5・39)のことばで、イエスの教えを示す典型としてよく知られている。このような一連の教えの内容は、絵画的に表現するのが難しいのか、適当な作品例も見つからない。そこで、表紙絵では、逮捕されたイエスが兵士たちから侮辱を受ける場面(マタイ27・27-31参照)を描くステンドグラス作品を鑑賞している。イエスが自らの受難を通して、このような「敵をも愛する愛」を実行したのではないか、という思いからである。
 ところで、きょうの三つの聖書朗読全体を見ると、気になる文言がある。第一朗読箇所(レビ19・1-2.17-18)で読まれる「あなたたちは聖なる者となりなさい。あなたたちの神、主であるわたしは聖なる者である」(レビ19・2)である。これとよく似た形の呼びかけが福音で、イエスの口から語られる。マタイ5章48節「あなたがたの天の父が完全であられるように、あなたがたも完全な者となりなさい」である。ちなみに、並行箇所のルカ6章36節では、この文言が「あなたがたの父が憐れみ深いように、あなたがたも憐れみ深い者となりなさい」となっている。これらによって、神の聖性、完全性、憐れみ深さにならい、人間も聖なる、完全な、憐れみ深い存在となることが求められている。このような者となることが、敵を愛する愛の根源であることが明かされているともいえる。
 しかし、このような存在に人はなれるのだろうか。イエスの要求は、果てしなく高すぎる要求なのではないか。「自分の敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい」(マタイ5・44)という求めも、ただ単に人間ひとりでは行えないのではないだろうか。このような問いかけが、これらの一連の教えから、生まれてこよう。そして、ここにおいて、イエス・キリストの存在と位置、その役割に気づかされる。神のあり方に、人を近づけ、あずからせるために、まさしく、イエスは救い主、あがない主として人間の間に来られている、というそのあり方、そして、使命に思いを向けさせられる。人は、キリストを通してしか御父である神に近づけないことが暗示されている。「一ミリオン行くように強いるなら、一緒に二ミリオン行きなさい」(マタイ5・41)など、我々の普通の行動感覚を飛び越えた教えの意図は、そこにある。イエスは、なによりも御父である神を示しており、その神のもとへと人を招いている。その神に近づく道として自らの存在と使命をあかししているにほかならない。
 そのようにして、イエス・キリストを信じる人には、神の聖性、完全性、憐れみ深さにあずかるための原動力が与えられる。このあたりのことを説き明かすのが、第二朗読箇所の一コリント書3章16-23節である。キリストに結ばれている人は、自身が 「神の神殿であり、神の霊が自分たちの内に住んでいる」(16節)。この霊が、「この世の知恵」(19節)にとらわれている人間を解放し、神の知恵に導いてくれるのである。その道を切り開いたのが、イエスの受難であり、その十字架への歩みを通して、すべての人に、御父である神に近づき、結ばれる可能性が開かれることになる。その十字架への道の中で、兵士たちから茨の冠をかぶせられ、侮辱を受けるイエスの心は、敵を愛する愛、迫害する者のための祈りで満ちていたことであろう。
 敵を愛しなさいという教えは、自らの受難の予告でもあったのである。そして、それは、死を超えたいのちへの招きとして、すべての人に向けられる力強いメッセージとなり、約束ともなっている。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(A年)●典礼暦に沿って』「年間第七主日」

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