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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年9月24日 年間第25主日 A年 (緑)  
わたしの気前のよさをねたむのか   (マタイ20・15より)

ぶどう園の労働者のたとえ
エヒターナハ朗読福音書挿絵
ドイツ ニュルンベルク国立美術館  11世紀

 きょうの福音朗読箇所は、マタイ20章1-16節。ぶどう園で働く人のたとえである。労働者、賃金、監督という言葉が登場する。日給、時給といった現代社会にもあるような制度に触れる内容である。ここで、短時間しか働かなかった人と長時間働いた人が同じ報酬であったと語られる点には、普通に考えれば、不合理、理不尽を感じてしまうだろう。それほどに、現実的な話題を通して、イエスは神のことを教えようとしている。
 この話を描く、エヒターナハ朗読福音書の挿絵である。人物像では鼻が長く大きく描かれるのが特徴である。実際には、この譬え話は三段に分けられて描かれているが、ここでは、その初め(上段)と終わり(下段)の図のみが掲げられている。上段は、ぶどう園で働く労働者の姿が大変生き生きと描かれている。下段は、(向かって)右側のほうで、労働者たちが賃金を受け取るところが描かれている。「五時ごろに雇われた人たち」(マタイ20・9)だろう。それに対して、(向かって)左側の人々は、「最初に雇われた人たち」(20・10)、すなわち、「もっと多くもらえるだろうと思っていた」のに、遅い時間に来た人と同じ扱いになっていることに不平を言う人たちである。(向かって)左端に立つ「主人」は、その手のしぐさをみてわかるように彼らを諭している。譬え話の中で「友よ、あなたに不当なことはしていない。……自分のものを自分のしたいようにしては、いけないか。それとも、わたしの気前のよさをねたむのか」(マタイ20・13-15)と。
 この下段の両側の労働者たちの態度の違いの中に、自分の働きに対して神からの報いを従順に受け入れる謙遜な人の態度 (右) と、自分の働きぶりを自分で評価し、神の思いに心を開かず、高ぶっている人の態度 (左) との違いが示されている。譬え話は、ある対比を通して、聞く者に自らの生活態度への反省と、回心を迫る意味があるが、それを具象化する絵は、よりわかりやすく、その意味を見る者に伝える。
 譬えの中の主人の「わたしの気前のよさをねたむのか」(15節)ということばは、きょうの箇所の中でも、神の端的なメッセージとして心に響く。「気前のよさ」ということばには、神が人を限りなく受け入れようとしている姿を思うことができる。まさしく神の招きである。ここのあたりの教えの意味を考えるために、第一朗読箇所イザヤ55章6-9節が参考になる。「わたしの思いはあなたたちの思いを、高く超えている」(9節)と、神の思いは人には窺い知れないところがあると語る。でも、その神を求めよ、と教えられる。「主を尋ね求めよ、見いだしうるときに。呼び求めよ、近くにいますうちに」(イザヤ55・6)。ここで呼びかけられている「尋ね求め」も「呼び求め」も、あてどない探求ではなく、神の招きに気づき、それに応えることとして言われている。神はすでに「見いだしうる」方であり、「近くにいます」方なのである。
 結局、ここの教えはイザヤ書も含めて、イエスの神の国の福音、マタイが伝える「悔い改めよ、天の国は近づいた」(マタイ4・17)の教えを展開するものであることが見えてくる。自分たち人間の思いを、はるかに超えている神の思いの前に、自分自身を低くし、「神に立ち帰るならば、豊かに赦してくださる」(イザヤ55・7)ことを悟り、「立ち帰ること」、「悔い改める」ことが求められているのである。そして、この神の「気前のよさ」と語られる、神の思いの内容はイエスの山上の説教(マタイ5・3-12)が見事に語り明かすものである。
 ちなみに、きょうの福音朗読箇所の締めくくりで告げられる、「後にいる者が先になり、先にいる者が後になる」(16節)の格言風のことばは、福音書の他のさまざまな箇所を想起させる。たとえば、マタイ福音書19章13-15節で、「子供たちを来させなさい。……天の国はこのような者たちのものである」といって、手を置いて祝福するところ、それから、ルカ福音書1章47-55節のマリアの歌の中の「主は……権力ある者をその座から引き降ろし、身分の低い者を高く上げ……」、さらに「迷い出た羊」の譬え(マタイ18・10-14 並行するルカ15・3-7の「見失った羊」の譬えも参照)、そして、「放蕩息子」の譬え(ルカ15・11-32)なども思い起こされる。さまざまな角度から天の国(神の国)を説き明かしている教えである。
 「気前のよさ」という日本語の中でも大変身近なことばを通じて、聖書があかしする神、そしてキリストのことに思いを深めてみよう。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(A年)●典礼暦に沿って』「年間第25主日」

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