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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2026年1月1日 神の母聖マリア(降誕の八日目) (白)
マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた(ルカ2・19より)

玉座の聖母子
アトスの修道院で作られたイコン
16世紀

 聖母子を描くイコンは多様であるが、表紙絵に示されるのは、6、7世紀に盛んに作られた最も古典的なスタイルの一つに従って16世紀に作られたものである。その古典的な聖母子像とは、「一つには聖母マリアが立って、幼子イエスを抱えており、そのイエスも主としての尊厳をもって真正面を向いて祝福のしぐさをしている。そのもう一つのタイプは、聖母マリアが玉座と呼べるような豪奢なソファに座し、そこにさらにイエスが主の尊厳にあふれる姿で座しているという、この表紙絵のイコンのタイプのものである。
 幼子のイエスは主権者のような衣装をまとい、左手には巻物、右手が祝福のしぐさ、つまり、キリスト像のイコンのもつ姿勢とまったく同じ姿の御子キリストなのである。このようなキリストの描き方の丁寧さとその姿が構図全体の中心にあり、画面全面を満たす金色が、この幼子の姿にさらに集約されている。このような御子とマリアの構図において、マリア自らが主の存在を下支えする「座」(=カテドラ)として奉仕している、とみることもできる。マリアの表情も、幼子イエスの表情もすべてを見通すかのような眼差しとともに、実に神々しい。「神の母」(ギリシア語でテオトコス=神を生んだ方)としてのマリアへの崇敬と御子キリストへの拝礼の心が一つに融合しているイコンとして味わい深い。
 このようなイコンの特質は、ローマ・カトリック教会の「神の母聖マリア」の祭日に鑑賞することにも意義がある。ローマ教会おけるマリア祝祭日の最も古いこの日は、その意味の源をなによりも12月25日の主の降誕に有している。その8日目がまさしく1月1日なのである。ユリウス暦というローマ帝国の暦法においても年始の日という特別な意味があった日だが、これは教会においてさらに特別な意味をもっていく。そのもとが、きょうの福音朗読箇所ルカ福音書2章16-21節にある。
 そこでは、誕生から八日たった日、それはユダヤ教の律法に従って割礼を受ける日であるが、その日に、幼子は、天使ガブリエルから「あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい」(ルカ1・31)と、いうお告げのとおり、「イエス」と名付けられる。それが、ヘブライ語で「神は救う」を意味するというところに、すでに神の御子である救い主であることの啓示がある。
 人の場合、名付けられるということは一個の人格としての歩みの始まりが刻まれるということである。イエスの場合は、まことの人としての歩みの本当のスタートという意味もあると同時に、救い主としての宣教のスタートをなすというところも重要になっていく。福音書がその次第をあかししていくとおりである。教会の暦では、主日から主日までの「八日間」が、主に始まり、主において完成されるという救いの歴史を象徴する基本的な単位だが、その同じ八日間、八日目という時のリズムにおいて 降誕の出来事がいったん完結するというのがこの1月1日である。
 このような「降誕の八日目」という意味を心に留めるために、今年の典礼暦から「神の母聖マリア」というメインタイトルに加えて「降誕の八日目」というサブタイトルが明記されるようになっている。つまり、この日は聖母マリアの祝祭日ではあるが、主の祝祭日の特性も併せ持っており、降誕節の中での祭日として一貫したかたちになっている。聖母子を輝かしく映し出す、表紙絵のイコンは、まさしく、この日の構造にふさわしい。
 福音朗読箇所の中のマリアの姿にもやはり注目しておこう。きょうの箇所で、マリアは神の御子の誕生をめぐる「出来事すべてをすべて心に納めて、思い巡らしていた」(2・19)。そして、イエスの名付けのところでは、「幼子はイエスと名付けられた。これは、胎内に宿る前に天使から示された名である」(ルカ2・21)と記させていて、マリアの名は言及されない。しかし、天使ガブリエルのお告げは、マリアへの命令であった(1・31参照)、そして、マリアは「お言葉どおり、この身に成りますように」(1・38)と言ったのである。したがって「幼子はイエスと名付けられた」という受動表現は、このことが究極的に神の主導になることであると同時に、そのもとにその神に従うマリアの働きも、全く目立たないかたちで隠されているといえる。そこにマリアの神に対する奉仕者としての姿勢、すなわち、自らを「わたしは主のはしためです」(ルカ1・38)とする姿がある。神の計画の地上における実現において、マリアの存在が秘められていることが重要であり、教会はそこをしっかりと見つめ、明確な言葉ではわずかしか言及されていないマリアの姿を深く追想し、崇敬し続けている。
 このようなマリアの姿が救いの歴史の中で意味する一つの側面は、神の人類に対する「祝福」である。受胎告知の場面での天使ガブリエルの最初のことばは「おめでとう。恵まれた方。主があなたと共におられる」(ルカ1・28)であった。第一朗読箇所=民数記6章22-27節が示す、イスラエルの民への神の祝福と照らし、恵みと平安を約束する、そのことばは、イエスとマリアを通して、今やすべての人に向けられている。きょうの聖母子のイコンが映し出すのは、そのような全人類、全世界への祝福と救いの約束そのものであろう。
 
 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(A年)●典礼暦に沿って』神の母聖マリア

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