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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長・日本カトリック神学院教授 石井祥裕)
2026年6月7日 キリストの聖体 A年 (白)
わたしが与えるパンとは、…… (ヨハネ6・51より)

パンを分け与えるキリスト 
エヒターナハの朗読福音書 
ニュルンベルク ゲルマン国立博物館  1040年頃

 この絵の画題はきょうの福音朗読箇所も含まれるヨハネ6章の初めにあるエピソード、すなわち「五千人に食べ物を与える」にちなむ絵である。このエピソードはどの福音書にも述べられている(「五千人」:マルコ6・30-44; マタイ14・13-21;ルカ9・10-17;「四千人」 マルコ8・1-9;マタイ15・22-39)。少ない食べ物で多くの人を満たして余りあるほどだったという出来事は、イエスの生涯における奇跡の記録というだけにとどまらず、後の教会においては、聖体の恵みを解き明かす出来事としても受けとめられてきた。イエスがパンの前で感謝や賛美の祈りを唱えて、パンを裂いて、弟子たちに渡し、人々に配らせたという行為のうちに、つねに今、主キリストがミサを通して我々を養ってくださっているという秘跡の意味合いが示されていると考えられてきたのである。
 この写本画は、そのような受けとめ方の具体例ともいえる。福音書によるこの出来事を示す要素は思い切り簡略化されている。中央のイエスと両脇の二人の使徒、そして両端の群衆もただ二人ずつ、食べ物もパンだけである。しかしこの図の中で圧倒的な意味をもっているのは中央のイエスを中心とした使徒たちの左右対称の配置である。
 特に大きく描かれているイエスは、その光輪に示された十字架によって、受難を通して栄光に入られた主として描かれている。深紅の衣は、古代において高貴の人、とくに主権者のしるしでもあった。まさしにここには主であるキリストが描かれている。この外衣の下の白い亜麻布の衣は、人間としてのイエスを表現しているという見方もある。まさに神であり人である方としてのキリストへの信仰宣言をこめた表現であることが感じられます。
 そのキリストは威厳のある面持ちで前を見つめ(すなわち、絵を眺める我々のほうを見つめつつ)、両手を広げて、パンを使徒たちに渡している。この動作とイエスの姿のうちに、きょうの福音朗読箇所ヨハネ6章51-58節の中の「わたしは、天から降って来た生きたパンである。このパンを食べるならば、その人は永遠に生きる。わたしが与えるパンとは、世を生かすためのわたしの肉のことである」(51節)のことばを深く味わうことができるだろう。
 その両脇の使徒の姿勢が興味深い。使徒が来ている衣はイエスと似ている。とくに内衣の白は、光を帯びた色になっている。ここには、キリストの栄光の反映があるのかもしれない。注目すべきは、使徒たちの姿勢である。体そのものはイエスのほうに向けられ、そのイエスから手渡されたパンを、自らの上体を反り返らせて人々に分け与えているのである。このような描き方はとても珍しい。この巧みな描写を通して使徒の使命と役割が鮮やかに示されている。キリストが自らを与えるという、その力にあずかり、使徒自らも与える者となっている。これがキリストに仕える者の姿勢であろう。
 使徒たちが手渡す人々は画面には半分しか描かれていないが、その表情には、真剣さと同時に明るい喜びや希望を帯びているようにも感じられる。身をかがめつつも、しっかりと手で受けとる姿勢は、キリストの恵みを誠実に受け入れる人々の心が見える。その視線は、もちろん使徒たちに向かっているが、その延長線上には、中央にいる主であるキリストがいる。キリストから流れる線は、再び人々からキリストへの還流していく。その視線の流れは、おそらく限りなく続いていくことだろう。それ自体、イエスがヨハネ福音書で語るところの永遠の命のしるしにもなる。キリストと使徒たちと人々を包む背景が緑色で満ちている。これも永遠の命のしるしになっている。
 そして、前述したが、キリストのまなざしは絵を眺める我々自身に向かっている。この中に、ヨハネ福音書の「わたしは……」のメッセージがすべてこめられている。それは、もちろん感謝の祭儀の構図そのものでもある。画面からはみ出している群衆の延長線上にはミサに集う我々自身がいる。聖体の秘跡、ミサの意味を黙想するように語りかけ、そのようにして我々の信仰を問いかける絵となっている。
 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(A年)●典礼暦に沿って』キリストの聖体

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