| 2026年9月27日 年間第26主日 A年 (緑) |
キリストは……、へりくだって、死に至るまで、それも十字架の死に至るまで従順でした (フィリピ2・8より)十字架のキリスト 板絵 チマブーエ作 フィレンツェ サンタ・クローチェ聖堂付属美術館 チマブーエは、13世紀末から14世紀初めに生きたイタリアの画家で、十字架磔刑図についても多くの作品がある。この板絵における十字架のキリストは、手足が異様に長く、また身体の屈曲を示す線の美しさが際立っている。十字架死の悲惨さのうちに、地上の生涯を全うした神の子の美しさを見つめ、崇めているようである。受難のキリストへの崇敬の高まりが美術との連動を示していく時代の祈りの心を伝える。深く目を閉じたイエスの表情に、見る者は、この死が意味するものへの黙想へと導かれるにちがいない。板絵の特徴として、磔刑のキリストの両脇にいるマリアと使徒ヨハネが、横木の先の枠の中に描かれている。 さて、この表紙絵は、直接には第二朗読箇所のフィリピ書2章1-11節(短い場合2章1-5節)にちなんでいる。長い朗読の場合の後半6-11節は、周知のように、受難の主日の第二朗読、そして聖金曜日の典礼の答唱詩編で歌われる箇所で、「十字架の死に至るまで従順」(8節)だったイエスを思い、神が御子のために成し遂げた高挙のみわざを含めて、神を賛美するところである。実は、聖週間の時期とおよそ半年離れたこの9月~10月の主日の聖書朗読においては、キリストの受難が一つの奥のテーマにもなっている。そのことを直接に示すのが第二朗読の使徒書であるが、同時に、それは、福音朗読箇所と第一朗読の旧約の箇所が示す主題と深いところで結びついている。これらの主日の黙想の大きなテーマである。ここでも、きょうの福音と旧約の関連を見ておくことにしよう。 福音朗読箇所は、マタイ21章28-32節。ぶどう園をモチーフとして兄と弟の態度の対照を主題とするたとえである。先週の年間第25主日では、マタイ20章1-16節で、ぶどう園の労働者のたとえ、来週の第27主日では21章33節-43節のぶどう園と農夫のたとえであり、このところ、「ぶどう園」が背景として続いていく。 きょうの二人の息子のたとえの中で、弟は、「行って働きなさい」(28節)という父親の言葉に対して、「承知しました」(30節)と言ったのに実際には出かけなかった。それに対して「いやです」(29節)と言った兄が「後で考え直して出かけた」(同)というところに大きなポイントがある。イエスの時代背景に即して考えれば、神のことば(律法や派遣命令)に表面的に(律法主義的に)応じるだけで、真に神のみ旨に適う行いをしない、当時のユダヤ人の指導層が批判され、それに対して徴税人や娼婦ら社会的に疎外されていた人々の信仰と行いが神の国にふさわしいものとして称揚されている、という理解になる。その上で、兄の回心や徴税人や娼婦らの信仰心が今の我々の模範として示されているというところに、きょうの福音としての意味が出てくる。 この譬えの中で「ぶどう園」は、上述のように、前後の主日でも「ぶどう園」というイメージが繰り返されているのを見ると、もっと広がりがあると考えてもよいだろう。ぶどう園(またはぶどう畑)は、旧約の神の民を象徴するイメージだからである。「子よ、今日、ぶどう園へ行って働きなさい」(マタイ21・28)というイエスのことばはか、神の国に生きる新しい神の民のために、自らその一員となって、民全体のために、さらに、すべての人が神の民となるように働きなさいというほどまでの意味合いがあるのではないか。使徒たちの派遣そのものにその広がりがあるのと同様に。その園には、疎外された民こそ招かれている。回心する人、神に心を向ける人はだれでも、招かれている。神の国の福音がやはり響いていよう。そう考えると、「考え直して出かけた」兄の行動は、単に信心深い行為というより、新しい神の民のために働き、生きる、福音宣教の使命を語っているものとも言えるのである。 この兄の回心の理解を支えてくれるのが、第一朗読箇所エゼキエル書18章25-28節である。ここはまさしく回心をテーマとしている。「悪人が自分の行った悪から離れて正義と恵みの業(わざ)を行うなら、彼は自分の命を救うことができる。彼は悔い改めて、自分の行ったすべての背きを離れたのだから、必ず生きる。死ぬことはない」(18・27-28)。この朗読箇所の中で語られる「主の道」(25節)は、ただ個人の回心の範囲にとどまらないように感じられる。正義や不正が語られる分脈だからである。 より大きな使命に招くがゆえの回心の呼びかけ――福音と旧約を通じて見えてくる主題をさらにキリスト中心に集約させ、徹底させるのが、きょうの使徒書フィリピ書ということになる。そこで語られる愛とへりくだりの姿を、表紙絵のキリストの姿を通して感じ取っていきたい。 |