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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2020年6月7日  三位一体の主日  A年(白)  
神は、その独り子をお与えになったほどに、世を愛された  (ヨハネ3・16より)

十字架のキリスト 
『カール二世の典礼書』挿絵 
フランス国立図書館 860 年頃


 8世紀から9世紀にかけて、カロリング朝時代には、十字架に磔(はりつけ)にされているイエスの図が多く描かれるようになる。それまで、荘厳のキリスト、勝利のキリストの図が親しまれていたのに対して、これは、中世の信仰心における関心のもち方の変化、イエスの十字架上での、人類を贖(あがな)うための奉献の死に対する関心の高まりの影響と考えられている。ただし、この時代の十字架におけるイエス・キリストは、純粋に傷つき、苦しみ死んでいく者としてではなく、十字架上にあってもなお目を開け、生きているキリストを描くもののほうが主流であった。この表紙絵の作品も、イエスの体はかなり写実的に描かれているが、それでも、重力によって体が下がるような姿ではない。
 この作品の興味深い点はもう一つある。それは、描かれているのがミサ典礼書のための挿絵であり、奉献文の始まる冒頭のところだということである。ローマ典礼のミサで奉献文は「ローマ・カノン(典文)」(Canon Romanus)と呼ばれる(現在のミサ典礼書には第一奉献文として収められている)。そこから奉献文の冒頭の挿絵が「カノン図」と呼ばれるようになる。それは、もともとは奉献文冒頭の語句の頭文字を飾ることから始まった。この絵でもイエスが架けられている青い色の十字架は、実は十字型ではなくT字型である。このTに始まり、イエスの体の(向かって)右側にはE IGITVRという文字が記されている(GI、TVは横に並び、またVはこの時代ではUを意味する)。これらをまとめるとTE IGITVR (今日的にはTE IGITUR)である。これが奉献文冒頭の二語である。日本語版『ミサ典礼書』の第一奉献文の最初の文言は「いつくしみ深い父よ、御子わたしたちの主イエス・キリストによって、いまつつしんでお願いいたします」だが、直訳すれば、「今、あなたに、お願いいたします」となり、TE IGITUR は「今、あなたに」に当たるのである。
 このように、ミサにおいて祝われる神秘、特に奉献文によって記念され、現在化され、信仰宣言されるところのイエスの十字架上での奉献の神秘、死と復活の神秘(=過越の神秘)を、冒頭の挿絵でイメージさせる役割をこの絵はもっている。これらの挿絵は、十字架のイエスを描く絵画の発達する重要な場となっていく。
 さて、きょうは三位一体の主日、父と子と聖霊である神への賛美が中心主題の主日だが、もちろん、キリスト者にとって、どのときも、どの祈りも、すべて三位一体の神への賛美が貫かれている。毎日の祈りの開始と結びの慣用句「父と子と聖霊のみ名によって。アーメン」にもそれが示される。この三位一体の神を絵画的にイメージするとしたら、どのような画像がふさわしいだろうか。父と子と聖霊を三天使として描くイコンの伝統もあるが、十字架のキリストを描く絵も立派に三位一体の神の画像と考えることができる。とくに、表紙絵のように、復活のキリストが十字架に描かれるとき、主の死と復活を通して救いを実現した御父のこと、そして、この神秘を絶えずあかし続ける教会の宣教の原動力である聖霊のことを思うだろう。「神は、その独り子をお与えになったほどに、世を愛された」(ヨハネ3・16)と語られる、神の計画と愛を、十字架のキリストは自らの命をもってあかししている。父と子と聖霊が一体となって実現された救いの源である神自身のありようは、きょうの第1朗読箇所、出エジプト記34章6節ですでに告げられているとおり、「主、主、憐れみ深く恵みに富む神、忍耐強く、慈しみとまことに満ち」た方であるというものである。そして、第2朗読箇所にある二コリント書13章13節は、三位の神の特徴を見事に言い表している。「主イエス・キリストの恵み、神の愛、聖霊の交わりが、あなたがた一同と共にあるように」。これは、言うまでもなくミサの開祭におけるあいさつの文言の一つである。我々のミサも生活全体も、三位一体の神に包まれ、導かれている。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

叙唱
奉献文の最初に司祭は叙唱を唱えます。叙唱は、典礼暦において祝われる祝日や季節に合わせて選ばれる幾通りもの多様な形式がありますが、年間の主日に唱えられる叙唱を例にとって見ると、司祭は会衆の前で、神が行ってくださった救いのみわざ、イエス・キリストの死と復活を通して成し遂げられた救いの恵みをたたえ、感謝と賛美へと招きます。

吉池好高 著『ミサの鑑賞――感謝の祭儀をささげるために』「第二部 ミサ式次第に沿って――感謝の典礼」本文より


 定期刊行物のコラムのご紹介

『聖書と典礼』三位一体の主日(2020年6月7日)号コラム「三位一体の神秘」

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